記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
デイサービスのような介護施設では、毎日クイズや体操といった、いわゆる脳トレが開催されています。こういった施設でおこなわれる脳トレは、ある意味参加するのが義務になっているので、基本的に脱落する人はいません。
ところが、自主的に脳トレへ取り組む場合は、少し事情が違います。自分の意志でおこなう脳トレには一切の強制力がないため、いくら効果があっても、楽しくなければおそらくすぐに止めてしまうでしょう。
そこで今回は、楽しい脳トレを継続するためのコツや、オススメの楽しい脳トレについて、解説していきます。せっかくはじめた脳トレが嫌にならないように、参考にしていただければ幸いです。
目次
楽しい脳トレを継続する3つのコツ
冒頭でもお話ししたように、楽しい脳トレでないと、なかなか継続はむずかしいです。実際に脳トレへ取り組む前に、まずは楽しく脳トレに取り組むためのコツを、しっかりと押さえてしまいましょう。
- 好きなことに取り組む
- 決まった日時に脳トレをおこなう
- 日常生活を脳トレに変える
ひとつずつ解説します。
好きなことに取り組む
楽しい脳トレに一番大切なのは、なんだと思いますか?
それは「好きなことに取り組む」ということです。もちろん、脳のトレーニングが目的なので、効果を求めることも大事でしょう。
しかし脳トレは、少なくとも年単位でじっくりと取り組むべきものです。だから、好きなことに取り組んで、途中で止めないことが非常に重要になってきます。
別に認知機能テストのような、専門的に作成されたものだけが脳トレではありません。クイズやパズル、あとから紹介する麻雀など、頭を使うものであればなんでも脳トレの役目を果たしてくれます。
また、ウォーキングや体操のように、身体をつかう有酸素運動も立派な脳トレです。第二の脳とよばれる手足を刺激すると、連動して脳も刺激を受けます。そういう意味では、料理や絵画・プラモデル、はたまた日常の家事でさえも、立派な脳トレといえます。
脳トレの内容にはあまりこだわらず、とにかく好きなものを続けるように意識してください。
決まった日時に脳トレをおこなう
脳トレを継続するには、脳トレの日時を固定してしまうのが、一番確実だと思います。脳トレに限らず、人間はとにかく理由をみつけて、決めたことを回避するのが得意です。
毎日1時間英語の勉強をしようと決めても、「忙しかったから」「今日は疲れているから」と、とにかくやらない理由を一生懸命探してしまいます。そういった先延ばしグセを治すには、強制的に脳トレに取り組む環境をつくるしかありません。
もしウォーキングをするなら、毎週月・水・金の朝6時から30分歩く(あくまでも一例です)と決めてしまいましょう。目覚ましをかけて、家族にも宣言しておきます。
歩いた距離や心拍数などを毎回記録するのも、よい方法です。記録するとなると、やらなかった日が一発でわかるので、頑張って継続しようという意識が働きます。
そういう意味では、さまざまな作業がプログラム化されているデイサービスを利用するのも、非常によい方法かもしれませんね。
日常生活を脳トレに変える
どんなにストイックな人でも、強制力のない脳トレを何年も継続するのは、かなり大変です。ましてや身体機能が衰えはじめた中高年ともなれば、途中で面倒くさくなり、すぐにやめてしまう姿が容易に想像できます。
もし自分がこういう状況に当てはまると思うなら、発想を転換して、日常生活を脳トレに変えてしまいましょう。たとえば、以下のような感じです。
- 5階以下ならエレベーターではなく階段を使う
- いつもよりひとつ前の駅で降りて歩く
- 車は自分で洗車をする
- 信号待ちの際には軽く足踏みをする
普段少しずつ楽をしている行為に、あえて負荷をかけてみてください。わざわざジムにいかなくても、十分脳トレとして効果を発揮してくれます。
また、掃除機がけや洗濯・料理といった家事も立派な脳トレです。キビキビと手足を動かせば、体全体の血流がよくなり、脳にも大量の血液が供給されます。
日常生活を脳トレに変えれば、わざわざ脳トレに時間を確保する必要がなく、ほかのことに時間を有効活用できます。ぜひ、試してみてくださいね。
高齢者にオススメの楽しい脳トレ
高齢者にオススメの楽しい脳トレを、9つの観点から紹介します。気になる症状があれば、ぜひ対応する脳トレにチャレンジしてみてください。
◆高齢者向けの脳トレについては、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶力低下の予防に「麻雀」
記憶力低下が気になる人には、麻雀がオススメです。麻雀は相手が捨てた牌をみながら先を読み、さまざまな駆け引きをおこなう知的ゲームです。相手がリーチ(あと一手で上がれる状態)を宣言すると、場にサッと緊張が生まれ、脳がビンビンと刺激を受けます。
また麻雀をすると、指先をたくさん使うのもいいですよね。牌をかき回したりつまんだりする行為をとおして、抹消の神経が活性化していきます。さらに、対局中に何度も計算しなければならないので、自然と計算力も鍛えられます。
とはいえ昔の雀荘(麻雀を打つお店)を知っている人は、タバコと酒・賭けごとという、マイナスなイメージを麻雀に感じているかもしれません。しかし現在では、タバコと酒はなし、お金のやり取りは禁止という「健康麻雀」が主流です。
麻雀は、もはやギャンブルではなく、近場の社交場になりつつあるのです。今までイメージだけで敬遠していた人は、ぜひいちど試してみてはいかがでしょうか。
作業記憶の効率化には「クロスワードパズル」
2019年、エクセター大学とキングス・カレッジ・ロンドンによって、クロスワードパズルを定期的におこなっている人ほど、脳機能が向上しているという研究結果※が発表されました。
この実験に参加した50歳以上の人は、「文法的推論を評価するテストでは年齢より10歳、短期記憶を評価するテストでは年齢より8歳若い脳機能を維持している」というのですから驚きです。
責任者アン・コーベット博士は、「クロスワードパズルのような脳トレが認知症を回避する保証はないが、今回の調査はクロスワードパズルが脳機能維持に役立つことを証明してくれた」と述べています。
もちろん、クロスワードパズルは脳機能の維持に役立つだけではありません。なんといっても楽しいし、ヒントをみてもなかなかわからなかった答えがわかったときの、あの爽快感。クロスワードパズルファンが世界中にいるのも、うなずけます。
実際、その人気を裏付けるように、書店にはクロスワードパズルの雑誌が山のように並べられています。楽しく脳トレをしたい人は、まずは1冊購入してチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
計算力向上「計算クイズ」
歳を取ると、誰でも多少は認知機能が衰えるものです。なかでも計算力の衰えは早い段階で表面化するので、計算力を集中的に鍛えておけば、認知機能低下そのものをしっかりと予防できます。
前述の麻雀でも計算を鍛える場面はありますが、本格的に計算力を鍛えたいなら、やはり計算クイズが効率的です。
といっても、微分積分のようなむずかしい問題を解く必要はありません。脳トレという観点でいうと、簡単な問題を素早く解くほうが、効果は高いといわれています。
なお、自分で問題を探すのは大変なので、計算アプリを利用するのがオススメです。計算アプリなら、暗算クイズ・ナンプレ・買い物シミュレーションなど、いろいろなゲームを自由に選べます。無料で遊べる計算アプリもたくさんあるので、まずはどれかひとつ気に入ったアプリをダウンロードしてみるとよいでしょう。
◆高齢者向けの脳トレアプリについては、コチラの記事でもお読みいただけます
判断力を鍛えるなら「アドベンチャーゲーム」
「最近どうも考え込んでしまうんだよなあ……」このように、ご自分の判断力に自信を失いつつあるなら、ぜひアドベンチャーゲームにチャレンジしてみてください。
アドベンチャーゲームとひと言でいっても、その種類はさまざま。できれば、推理的要素やバトルが組み込まれたゲームだと、脳トレの効果は大きくアップします。
画面から必要な情報を読み取り、正しい選択を迫られる推理ゲームは、判断力をしっかりと鍛えてくれるでしょう。バトルゲームなら、判断力だけでなく、空間把握能力・観察力・動体視力なども同時に鍛えてくれます。
こちらも、先ほどの計算力同様、アプリが充実しているのも嬉しいポイントです。アドベンチャーゲームは単純にゲームとしても楽しいので、ゲーム好きな人はより質の高い有料ゲームの購入を検討しても決して損はしないと思います。
言語能力アップに「漢字穴埋めクイズ」
高齢になり、言語を司る部位が衰えると、うまく自分の考えていることを言葉にできなくなります。たまに言葉に詰まる程度ならまだよいのですが、相手の話す内容が理解できなくなると、さすがに日常生活が困難です。
こういった状況を回避するためにも、最低なにか1種類は、言語系の脳トレに取り組んでください。難読漢字読み・熟語作成など、数多い言語系の脳トレのなかから、今回は「漢字穴埋めクイズ」を紹介します。
上図は、4つの二字熟語が重なった部分の、空欄に入る漢字を当てるクイズです。ぜひ答えを考えてみてください。なお、1は「顔」、2は「禁」が答えになります。
こういった漢字クイズは、クロスワードパズル同様、答えがわかったときにスッキリ感を味わえるのが大きな魅力です。このスッキリ感を「アハ体験」といい、アハ体験を受けた脳は神経伝達物質ドーパミンを大量に放出します。その際に、脳の活動が一気に活性化するのです。
◆言語系脳トレアプリについては、コチラの記事でもお読みいただけます
読解力を鍛えて正しく内容を理解「音読」
以前別記事でもお話ししたように、音読には以下のようなメリットがあります。
1.目と耳から情報が入ってくるので脳がより刺激を受ける
2.音読でじっくりと読む間に心がリラックスしてくる
3.大きな声で音読すると気持ちが晴れ晴れとする
4.口周りの筋肉が鍛えられて誤飲の心配が減る
楽しいという面からいえば、とくに関係するのは、2と3でしょうか。音読は黙読よりも読書スピードが遅くなるので、そのぶんじっくりと文章が読めます。じっくり文章を読んでいると、不思議と心が落ち着いてくるんですよね。
また、大きな声で音読をすると、これまたなんとなく気持ちが晴れやかになってきます。普段、ひとりで部屋にいると、声を出す機会がほとんどありません。
だから、音読でたまに声を出してあげると、かなりストレスが解消できます。もちろん、最初から最後まで音読するのは大変なので、気になる箇所だけで十分です。
ビジネス書のように、内容を覚えて実生活に役立てたい場合は、音読によって深く記憶に定着するというメリットもあります。人生100年時代、音読を上手に活用して、どんどん知的好奇心を満たしていきましょう。
◆音読の脳トレ効果については、コチラの記事でもお読みいただけます
投資の練習で分析力アップ「投資シミュレーション」
分析力を司る前頭前野の機能低下を食い止めるなら、趣味と実益を兼ねて、投資シミュレーションはどうでしょうか。投資をしようと思えば、「投資商品」「投資手法」「投資理論」「税制度」など、多岐に渡る分野の知識を身につけなければなりません。
こういった新しい刺激を受けると、論理的判断や将来予測といった高度な脳活動が、前頭前野で活発に働き出します。しかも、投資は利益を生む可能性があるので、「よしせっかくなら利益を出そう」と、ワクワク感も味わえます。
もちろん、損をする可能性もあるので、いきなり本格的なトレードをおこなうのは絶対にやめてください。さいわいなことに、各証券会社では、無料のシミュレーションを用意してくれています。これなら、いくら失敗しても金銭的ロスはないし、不要なストレスを受けることもありません。
投資の目的は、あくまでも楽しく脳を鍛えること。もし実際に投資をする場合でも、余剰資金の範囲内でおこなうなど、決してムリのないように楽しく投資とお付き合いしていただければと思います。
右脳がもつイメージ化や創造性が磨かれる「絵画」
これまで脳トレに関する他記事でも、私は絵画を非常にプッシュしてきました。なぜなら絵画は、普段あまり使わない私たちの右脳を思い切り鍛えてくれるからです。
題材を正確に写し取るデッサンや写生では、3次元の題材を紙という2次元の世界に置き換える作業が発生します。
陰影や反射などを表現して、いかに平面に描かれた絵を立体的にみせるか、右脳が統括する「イメージ化」や「空間把握能力」の働きなしにとても成し得るものではありません。
自分のオリジナルのイラストを描く場合は、さらに「創造性」も必要になります。言うまでもありませんが、創造性も右脳がコントロールしている能力です。
ここまで、絵画の脳トレ効果をざっくりと紹介しましたが、なによりも絵画は楽しいです。自分のイメージしたとおりの絵が描ければ、ワクワクして、すぐに誰かにみせたくなるでしょう。今は、TwitterやInstagramなどを使えば、誰でもすぐに自分の絵を発表できます。
なお、絵の描き方が学べる教室やオンライン講座は、探せばいくらでもあります。初心者のかたも、ぜひ臆することなく、絵画にチャレンジしてみてください。
◆絵画の脳トレ効果については、コチラの記事でもお読みいただけます
手足を動かす「健康体操」
「日常生活を脳トレに変える」でもお伝えしたように、人間の手足には大量の神経が集まっています。だから手足を適度に動かすと、神経が刺激を受けて、脳が活性化するわけです。さらに運動により、手足の末梢血管が拡張して、全身の血流が改善します。
高齢者にオススメなのは、下半身を中心とした健康体操です。なんといっても、全身の筋肉のうち、約60〜70%が下半身に集まっています。だから、下半身の体操をすると、非常に効率よく身体を鍛えられるわけなのです。
なお下半身は筋肉量が多いぶん、いったん筋肉量が少なくなると、一気に衰えがはじまります。1か月入院して寝たきりの状態になると、筋肉量は約半分にまで落ちるそうです。
よく寝たきりになると回復するのはむずかしいと聞きますが、それは筋肉量・骨密度・循環器といった重要な器官がすべて衰えてしまうからです。脳トレ云々の前に、まずは寝たきりにならないように、しっかりと手足を動かしていきましょう。
◆有酸素運動のメリットについては、コチラの記事でもお読みいただけます
高齢者が脳トレをする際の注意点
脳トレ継続のコツとオススメの脳トレがわかったところで、最後に高齢者が脳トレをする際の注意点を3点紹介しておきます。せっかく脳トレをはじめたのに、途中で止めてしまわないように、注意点をしっかりと理解しておいてください。
過度なライバル心は百害あって一利なし
脳トレのなかには、ゲームのように相手との優劣がはっきりと現れるタイプのものがあります。一生懸命やったのに負けてしまうと、人によってはイラッとすることもあるでしょう。
とくにデイサービスのような、同じゲームに複数の人が参加する場合、負けたくないという気持ちがつい爆発しがちです。でも、どうか落ち着いてください。相手に勝っても賞金が出るわけでもないし、変に誰かと競い合っても、その人達と気まずくなるだけです。
脳トレの目的は、あくまでも楽しく脳を鍛えて、脳機能の衰えを予防することにあります。それならば、勝ち負けにはこだわらずに、和気あいあいと楽しい脳トレを目指すべきです。一緒に脳トレをする人は、ライバルではなく仲間です。そのことを、ぜひ忘れないようにお願いします。
決して無理強いはしない
自主的に脳トレをおこなう場合はよいとしても、子どもの立場から親に脳トレを勧めるときは、決して無理強いをしないようにしてください。
楽しい脳トレだと本人が感じていない限り、無理にやらせようとしてもすぐに嫌になってしまいます。しかも、いちど脳トレに拒否反応をもたれてしまえば、今後自ら脳トレに取り組むことはおそらくもうないでしょう。
これは、自分に置き換えてみればすぐにわかることです。しかし、普段ならすぐにわかることでも、親の衰えを目の当たりにすると、つい押しつけてしまうんですよね。気持ちは非常によくわかります。でも、脳トレをやるかどうかを決めるのは、あくまでも本人です。
どうしても脳トレを勧めたいのなら、まずは自分がやってみて、それから親を誘ってみるのがよいと思います。いずれにしても、他人に脳トレを押しつけるのだけは、絶対に止めてください。
飽きない工夫が必要
今回紹介した脳トレは、どれもなんらかの効果が期待できる優れたものばかりです。しかし、どれほどよい脳トレでも、同じ脳トレばかり続けていると、必ず飽きがきます。だから、脳トレを長期間継続するには、飽きずに続けられる工夫が必要です。
具体的にどうすればいいのかというと、答えは単純。なにか、新しいことをすればいいだけです。同じ脳トレをしばらく続けると、以前よりもスムーズにできるようになっている自分に気づくと思います。
これはあなたのスキルが上達した証明ですから、本来喜ぶべきことでしょう。でも、楽にできるようになるというのは、脳トレがすでにルーティン化した証でもあります。考えなくてもスムーズにできるようになったら、脳トレ効果は半減していると思ってください。
もちろん、今やっている脳トレをやめる必要はありません。その脳トレにプラスして、新しい脳トレを取り入れればいいだけです。
なお、もし今クイズやパズルといった頭脳系の脳トレをやっているなら、今度は体操やウォーキングのような作業系の脳トレをオススメします。そうすれば、頭と体の両方から効率よく脳を鍛えられますので。
まとめ
本文中でも繰り返しお伝えしたように、楽しい脳トレでないと、長くは続けられません。脳トレは長期間継続しないと効果が期待できないので、とにかく楽しい脳トレをすることに、全力で集中してください。
そのためにも、まずは自分の好きな脳トレに取り組むべきです。今回紹介した脳トレを参考に、ぜひ自分の好きな脳トレをみつけていただきたいと思います。