記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
受験や資格試験の本番を控え、「読んだ内容をすべて覚えていられればいいのに……」と、考えたことのある人も多いのではないでしょうか。
なにかしら学ぼうとする人にとって、永遠の課題ともいえるのが、この「暗記」です。今回の記事では、暗記力に関する基本的な情報をお伝えしたあと、具体的な暗記力を高める方法について解説していきます。
目次
暗記力を向上させる基本的なテクニック
具体的な暗記法の前に、暗記力を向上させる基本的なテクニックについて、5点ほど確認していきましょう。
反復練習は暗記の基本
暗記の基本は、なんといっても、「反復練習(復習)」です。残念ながら、私たちの脳は1回読んだり聞いたりしただけでは、長期間覚えていられません。
最初に脳へインプットされた情報は、短期記憶としてワーキングメモリとよばれるシステムが処理をします。そこで「この情報は重要だ」と判断されなければ、おそらくわずか数十秒で内容を忘れてしまうでしょう。
反復練習は、同じ情報を何度も繰り返し学習することによって、脳に情報をしっかりと刻み込むテクニックです。
反復の重要性は比較的広く知れ渡っているので、たとえば新しい英単語を学ぶとき、多くの人は何度もその単語を繰り返し読んだり、話してみたりしますよね。それでも、なかなか覚えられないという場合は、おそらく以下の2点が原因です。
- 復習の回数が少なすぎる
- 復習の時期が適切でない
上記の対策については、後半にお話しする実践編で詳しく解説します。
◆短期記憶を鍛える方法については、コチラの記事でお読みいただけます
関連づけの重要性
インプットした情報を記憶する際、関連のある内容をまとめてインプットすると、暗記の効率は大きく向上します。
たとえば、「好き」という意味の英単語を覚えたいとしましょう。日本語の場合はひと言で「好き」になってしまいますが、英語なら「like」「love」「adore」「fond」といったように、好きという意味をもつ言葉が数多くあります。
もちろん、「like(一般的な好き)」と「adore(大好き・敬愛する)」のように、含まれるニュアンスはかなり違います。しかし、まったく関連性のない単語を機械的に覚えるよりも、記憶の定着度は間違いなくアップするでしょう。
同様に、反対の意味をもつ対義語も同時に覚えれば、ひとつの英単語の周辺語彙を根こそぎカバーできます。
今回は英単語を例に挙げましたが、歴史や科学、あるいは仕事の勉強に至るまで、あらゆるジャンルに関連づけは応用できるはずです。
◆英単語の暗記法については、コチラの記事でもお読みいただけます
暗記がはかどる環境づくり
学習効率を少しでも高めたいなら、適切な学習環境の整備が欠かせません。とくに集中力を必要とする暗記の効率は、学習環境によってまったく変わってしまいます。
まず、集中力を邪魔する、他人の話し声や外部の騒音をできる限り遮断しましょう。本来なら、誰もいない静かな部屋で勉強できればベストですが、スマホやゲームの誘惑に襲われる危険性があります。
もし、図書館やカフェで勉強をするなら、耳栓や今流行のノイズキャンセリングイヤホンを活用しましょう。そうすれば適度な緊張感のなか、集中力を切らさないまま、暗記学習に取り組めます。
なお、集中力を阻害する最大の原因は、スマホです。どこで勉強するにしろ、暗記をする間はスマホが視界に入らないようにしてください。(電源を切ってカバンにしまうのがベスト)
◆スマホの対処法については、コチラの記事でもお読みいただけます
睡眠と暗記力の関係とは
暗記力を高める方法として、反復練習や関連づけを意識するのは非常に有効です。しかし、十分な睡眠時間を確保できていなければ、そういった勉強法の効果は半減します。
いっけん暗記力とは無関係にみえる睡眠ですが、なぜそれほどまで暗記に影響を与えるのでしょうか。それは、人間の脳が睡眠中に記憶の整理をおこなうからです。
もう少し詳しく説明すると、まず睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があります。レム睡眠中の体は弛緩してリラックス状態にあるものの、脳の海馬は記憶処理をおこなっているのです。
レム睡眠とノンレム睡眠は交互に繰り返され、レム睡眠は1回約30分、ひと晩に約5回発生します。記憶の定着は、睡眠後半の比較的浅いレム睡眠中に活性化するので、短時間睡眠では肝心の浅いレム睡眠が減り、記憶定着の効率が下がってしまうのです。
暗記の効率を上げるなら、少なくとも7時間半から8時間は睡眠を確保するように心がけてください。
情報の断捨離も必要
現代は、とにかく情報過多の時代です。SNSやニュース、友人との会話などから絶えず情報が流れ込み、私たちの脳はパンク寸前ともいえる状態にさらされ続けています。
なにか情報を暗記しようと思ったら、十分な空き容量が必要です。それなのに、脳内がすでに情報でいっぱいだったら……
暗記の効率が著しくダウンするのは、当然の話ですよね。なので、暗記力を高めるには、この情報の断捨離が非常に重要となってきます。
情報の断捨離というのは、なるべく必要な情報だけを取り込むということです。たとえば、試験勉強中に無関係なニュースやエンタメに目を向ければ、集中力が散漫になり、効率的な暗記学習はむずかしいでしょう。
このような状況を避けるためにも、目の前のタスクと関係のない情報は、徹底的に遮断する意識を強くもつようにしましょう。(前述のスマホ対策が有効です)
【実践編】暗記の効率を最大化する学習法
暗記力を向上させる基本的なテクニックがわかったところで、今度は暗記の効率を最大化する学習法を具体的にみていきます。
◆その他オススメの暗記方法については、コチラの記事でお読みいただけます
短時間集中学習法
ズバリ、暗記には、短時間集中学習法がオススメです。長時間の連続的な学習は脳への過度なストレスを引き起こし、疲労感を増大させる可能性があります。
実際に東京大学の池谷裕二教授がおこなった実験※では、「長時間学習よりも短時間で集中しておこなう積み上げ型学習のほうが、学習の定着・集中力に対して効果がある」と判明しています。
短時間学習の具体的な方法としては、ポモドーロテクニックが非常に便利です。ポモドーロテクニックとは、25分間の学習と5分間の休憩をワンセットにして、そのセットを繰り返す勉強法です。
1回の学習時間が25分しかないので、集中力が切れそうになっても、「このくらいなら頑張ろう」という気持ちが湧き上がってきます。ポイントは5分間の休憩です。1回の学習時間を25分に設定しても、連続しておこなえば区切った意味がありません。
この休憩時間中は完全に勉強を止め、立ち上がってストレッチをする、コーヒーを飲むなどして、気持ちをリフレッシュするように心がけてください。
※参考:<勉強時間と学習の定着・集中力に関する実証実験> 株式会社ベネッセホールディングス
◆ポモドーロテクニックについては、コチラの記事でもお読みいただけます
アクティブリコール
効果の高い学習法として、「アクティブリコール」も非常にオススメできます。アクティブリコールとは、「自分の頭を使って情報を積極的に思い出す」勉強の総称です。
テキストを読むだけの受動的な学習とは異なり、アクティブリコールは自らの脳を強制的に働かせて、深い理解と情報の定着を促進します。
具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。
- 新しい情報を学んだあと、教材を閉じて説明してみる
- 勉強した内容を要約して、ノートに書き出す
- テキストの章ごとに理解度テストをおこなう
上記のように、自ら積極的に情報をインプットすれば、脳は「この情報は重要なのでしっかりと記憶しておこう」と判断してくれます。この覚えようという意識が、効率のよい暗記には不可欠なのです。
スペースド・リピティション
スペースド・リピティションとは、一定の間隔を空けて何回も復習をおこなう学習法です。「復習ならやっているよ」という人もいると思いますが、スペースド・リピティションは、復習の間隔が大きなポイントになります。
最初は理解度が低いので、当然復習の間隔は短めに設定します。個人差もありますが、学習直後に復習をして、翌日に再度復習するのが基本的なペースになってくるでしょう。
そのあとの復習は、少しずつ間隔を空けていきます。間隔に決まりはありませんが、3日後・1週間後・1か月後というように、とにかく復習期間を伸ばしていくのがポイントです。
このように覚えた内容を忘れかけたころに復習すると、記憶が上塗りされて、徐々に記憶の定着度が強くなっていきます。適当に復習をするのではなく、ぜひ適切な間隔を自分なりに探し出してみてください。
五感をフル活用した学習法
私たちの五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)は、日常生活のなかで絶えず情報を脳に伝え続けています。効率よく暗記をするなら、こうした五感を活用しない手はないでしょう。
たとえば、視覚です。文字ばかりのテキストを読んでも、目が上滑りしてしまい、イマイチ内容が頭に入ってきません。ところが、カラフルなイラストやグラフが多用されているテキストなら、むずかしい内容でも一発で理解できてしまいます。
聴覚を活用した勉強法も、いいですね。耳から情報をインプットする学習は、場所を問わないので、通勤通学や家事の時間も有効に活用できます。
また音楽やリズムと組み合わせて、アウトプットする方法も効果が高いです。英単語帳で有名なアルクのキクタンは、音楽に合わせて英単語を口ずさむ「チャンツ」とよばれる学習法で有名ですよね。
もちろん、視覚と聴覚を組み合わせた「動画学習」も、高い効果が期待できます。そのほかにも、匂いや手触りと情報を関連づける方法なども、上手に取り入れれば効果がありそうです。
まずは、視覚と聴覚を中心に、自分に合う方法をいろいろと研究してみてください。
◆音読の効果については、コチラの記事でお読みいただけます
デュアルコーディング
「デュアルコーディング」は、視覚的な情報(画像や図)と言葉(テキストや音声)を、組み合わせておこなう学習法です。先ほど紹介した、五感をフル活用した学習法の一種と考えればわかりやすいでしょう。
文字だけの情報とイラストや画像による補足説明のある情報を比較すれば、圧倒的に後者が理解しやすいです。歴史上のできごとを時系列で覚えるなら年表が便利だし、植物の名前を暗記するなら画像は必須です。
このように、視覚情報をうまく文字と組み合わせれば、暗記のスピードは上がり、しかも忘れにくくなります。
時間的余裕がある場合は、ぜひイラストや画像をみながら、内容を自分で説明してみてください。反対に、文字を読みながら、イラストをイメージしてみるのもいいでしょう。少々面倒かもしれませんが、記憶の定着という意味では非常に効果が期待できます。
インターリービング
インターリービングは、異なるトピックを交互に挟み込む学習法です。多くの人は、参考書を単元ごとに順番通り進める、いわゆる「ブロック学習」を好みます。一つひとつの単元を丁寧に勉強するので、しっかり理解できる気がするからでしょう。
しかし実際には、違う内容を切り替えながら勉強するほうが圧倒的に効率的であると、さまざまな研究※で明らかになっています。
理由は、大きくふたつ。
- 飽きを回避できる
- 復習の効率がよい
同じことを長時間続ければ、誰だって飽きてきます。飽きれば当然集中力はなくなり、暗記のモチベーションが続きません。だから、適度に違うトピックへ移行して、新鮮な気持ちをできるだけ失わないようにします。
たとえば英語なら、文法だけを勉強するのではなく、単語暗記・リスニング・長文読解などを交互に進めていくわけです。
また、復習は一定期間インターバルを空けておこなうのが、もっとも効率がよいといわれています。前述のスペースド・リピティションですね。インターリービングで勉強を進めれば、意識しなくても適度な間隔を空けて復習ができます。
※参考:University of Florida College of Medicine Medical Education – Academic Matters
小テストで確認
暗記力を高めたいなら、単元の終わりに、小テストで必ず理解度の確認をしましょう。多くの人は読んだだけで覚えた気になってしまいますが、それは大きな間違いです。
教科はどれでもよいので、試しに小テストをやってみてください。数分前に読んで理解したはずの内容が、じつはあやふやだったということに気づくはずです。このように、小テストを利用すれば、自分の理解度を自己評価できます。
自分の理解度がわかれば、あとは小テストで間違った箇所を重点的に復習していくだけです。小テストで正解した内容は、基本的に後回しでOK。不正解を復習したあとに再度確認テストをして、そこでも正解すればもう復習の必要はありません。
科目別オススメ暗記戦略
最後に、とくに需要の高い受験勉強の暗記戦略を、科目ごとに紹介していきます。なお、社会や理科のように選択できる科目は、生物と世界史を例に説明していきます。
国語
国語は基本的に暗記が少ない教科です。漢字の暗記は多少あるかもしれませんが、主に古文で使われる難解な単語の暗記がメインになります。「いざよふ(ためらう)」「あらまほし(申し分ない)」など、文字から意味を推測不可能な文字は、当然暗記も困難です。
こういった文字の暗記には、ぜひイラストを活用してください。いざよふを覚えるなら、ためらっている人の絵を単語の脇に描いて、単語をイメージとして覚えると暗記が格段に楽になります。
もちろん絵を描く手間は必要ですが、暗記の効率がアップすれば、復習にかける時間は逆に短縮できるはずです。
数学
数学は、ほかの教科に比べて、暗記量は少なめです。もちろん、公式や解き方を覚える必要はありますが、公式を丸暗記してもあまり意味がありません。なぜならば、実際の試験では応用問題が多く、ただ公式を知っていても解答できないからです。
最低限の公式を覚えたら、とにかく問題を解きまくりましょう。問題をこなすうちに、自然と公式や解き方を応用するコツがわかってきます。
英語
英語の暗記といえば、なんといっても英単語です。大学入試を例に挙げれば、少なくとも以下のような単語数を暗記する必要があります。
- 大学入学共通テスト:5,000〜6,000語
- 難関大学:6,000〜7,000語
個人差はありますが、「easy↔簡単」といったように、単語と日本語を対にして覚えていく暗記のやりかたはオススメしません。単語単体の意味だけ覚えても、実際の使い方がわからないと、使い物にならないからです。
たとえば、dealという単語を、分配するという意味で覚えたとしましょう。しかし、dealのあとにwithがくっついたら、「処理する」といった意味に変わってしまいます。英単語を暗記する際は、単語の使われ方を例文や長文で確認しながら覚えるようにしてください。
◆受験の英単語学習については、コチラの記事でもお読みいただけます
理科(生物)
理科系のなかでも、「生物」はとくに暗記量が多いといわれています。そのため、出てくる内容を漏れなく覚えようとしても、正直不可能です。単元ごと完璧にするのではなく、まずは、テキストに太字で書かれている部分だけ、徹底的に覚えてしまいましょう。
こまかい枝葉の部分は、全体の流れを理解してから少しずつ補填していく流れで覚えていきます。便宜上こまかく分類されていますが、生命に関するものがベースになっているので、大枠をまとめて理解できれば、効率よく暗記が可能です。
また、生物のテキストには、画像や図解が多用されています。前述のデュアルコーディングの実践に最適な科目ですので、ビジュアルを最大限活用して、効率のよい暗記にチャレンジしてみてください。
社会(世界史)
歴史のなかでも、世界史に苦手意識をもつ人は非常に多いです。とにかく学習範囲が広いし、馴染みのないカタカナの地名や人名の暗記は、たしかに負担が大きいでしょう。そのため、参考書の順番どおりに暗記をするのは、あまりよい方法とはいえません。
世界史は、タテ軸とヨコ軸の両方から、項目を関連づけて暗記する方法がオススメです。たとえば、タテ軸を「1800年代(年号)」、ヨコ軸を「独立(キーワード)」にしたらどうでしょうか。
年代を軸にすれば、同じ1800年代ということで、以下のような内容を関連づけて覚えられます。
- 1861年「アメリカ南北戦争開始」
- 1861年「イタリア王国成立」
- 1871年「ドイツ帝国の成立」
一方でキーワードを軸にした場合は、1830年「ベルギー王国独立」、1912年「中華民国成立」など、王国や帝国の成立をまとめて暗記が可能です。
上記はあくまでも一例なので、年号や項目は自由に設定してください。とくに、世界史でよく出題される項目は決まっています。「戦争」「国名・王朝名」「同盟国」「川・山脈」など、キーワードを軸にして、関連事項を一気に覚えてしまいましょう。
まとめ
ひと言で暗記力を高める方法といっても、じつにさまざまな方法が存在します。暗記のベースとなる「反復練習(復習)」を中心に、あとは今回紹介した方法を参考に、自分にあうものをいろいろと試行錯誤してみてください。
継続して取り組み、定期的に振り返り修正を繰り返すうちに、いつの間にか暗記がスムーズにおこなえるようになっているはずです。