記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
現代の忙しい日常生活のなかで、効率的に情報をインプットしたいと考えている人は多いでしょう。そういった状況のなか、短時間で大量の情報を吸収できると、動画や音声の倍速再生が話題です。
しかし、倍速再生にはメリットだけでなく、脳に与える影響やデメリットも存在します。この記事では、倍速再生が脳にどのような影響を与えるのか、そして学習効率を高めるためにどのように活用すべきかを、メリット・デメリットと共に詳しく解説します。
目次
倍速再生とは?
「倍速再生」とは、動画や音声コンテンツを、通常より速いスピードで再生する行為を指します。倍速となっていますが、再生速度には個人差があり、1.5倍から2倍の範囲で任意に速度を設定する人が多いようです。
現在、10〜20代のZ世代を中心に、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する人が増えています。ムダな時間を減らして、大量の情報をインプットするために、動画を倍のスピードで再生するわけです。
YouTubeをはじめ、主要なプラットフォームでは、再生速度を自由に変更できるようになっています。いちど好みの速度に設定すれば、コンテンツを変更しても設定は維持されるので、倍速でしか動画や映画を見たことがないという人も少なくありません。
さすがに音楽はノーマルスピードで聴くようですが、イントロや楽器のソロパートを早送りするなど、あくまでもタイパ思考がベースになっています。
倍速再生を活用したインプットのポイント
タイパを考えれば、たしかに倍速再生には大きなメリットがあるでしょう。しかし、ただ闇雲に倍速再生をしていると、内容の理解度に悪影響をおよぼす可能性があります。倍速再生の恩恵をしっかりと受けられるように、倍速再生を活用したインプットのポイントを3つ紹介します。
倍速は速すぎる「1.5倍再生のススメ」
倍速再生を使う際に、多くの人が「速ければ速いほどよい」という考えに陥りがちです。2倍速やそれ以上のスピードでコンテンツを再生すれば、たしかに時間の節約にはなるでしょう。
しかし、話が速く進みすぎて、肝心の内容の理解が追いつかない場合も少なくありません。専門的な内容やこまかい説明が必要な学習用の動画では、速すぎて理解度が低くなってしまえば、動画を視聴する意味がなくなってしまいます。
そこでオススメなのが「1.5倍再生」です。1.5倍速は、通常よりも速いスピードでありながら、理解しやすさをギリギリ保っている絶妙なバランスのスピードです。個人差はありますが、1.5倍を超えると理解度が極端にスポイルされる印象があります。
娯楽の動画ならそれでも問題ありませんが、なにかを学ぶために視聴する場合は、1.5倍をマックススピードに設定しておくのが無難です。もちろん、慣れている人は2倍速でも構いませんが、最初からムリに倍速にこだわる必要はまったくありません。
学習内容によって再生速度を調節する
倍速再生を効果的に活用するためには、学習内容に応じてこまめな再生速度の調整をオススメします。
単純な事実や基礎的な知識をインプットする場合は、1.5倍速以上の速いスピードで視聴してもとくに問題ありません。繰り返し視聴している内容や、すでにある程度理解している内容の復習が目的なら、倍速でも十分に対応できるでしょう。
しかし、複雑な理論や、新しい概念を学ぶ際には、まず通常の1倍速での視聴をオススメします。あまりにも速いスピードで視聴すると、こまかなニュアンスや重要なポイントを見逃す可能性があるため、理解度がどうしても浅くなってしまうからです。
ノーマルスピードでじっくり内容を確認し、疑問点やあとから確認したいことをメモしておけば、スムーズに学習が進行するでしょう。そして、後日その内容を復習する際には、ある程度内容が頭に入っていますから、倍速再生でも脳はバグることなく対応できるはずです。
このように学習の目的や内容に応じて、再生速度を柔軟に使いわければ、効果的かつ効率的な学習が可能になります。
脳の負担を減らすために適度な休憩を入れる
倍速再生を使って学習を進めると、短時間で大量の情報をインプットできます。ですが、その分、脳に負担がかかり、どうしても記憶の効率が落ちてしまいがちです。とくに、発表や試験といった期限間際に根を詰めすぎると、脳は完全にオーバーロード状態に陥ってしまいます。
そういった状況を防ぐには、適度な休憩が非常に重要です。集中できる時間に個人差はありますが、1時間ぶっ通しで集中できる人はそう多くありません。1時間だけならまだしも、1時間単位を何回も繰り返せば、途中で飽きてしまう人も多いでしょう。
その点、25分ごとに5分休憩を挟む「ポモドーロテクニック」なら、集中力を維持するのが比較的簡単です。勉強に疲れて集中力が切れそうになっても、たった25分間だと思えば、なんとか乗り切れます。
ポイントは、5分間の休憩の過ごし方です。休憩時間になると、SNSや動画を見る人も多いですが、これでは脳がまったく休まりません。目を閉じて瞑想する・コーヒーを飲む・立ち上がって軽くストレッチをするなど、できるだけ脳を休めてあげてください。
◆ポモドーロテクニックの詳細については、コチラの記事でお読みいただけます
倍速再生のメリット
倍速再生には、メリットとデメリットの両面が存在します。倍速再生をはじめる前に、まずはなぜ倍速再生がよいのか、そのメリットをしっかりと理解しておきましょう。
短時間でより多くの情報をインプットできる
倍速再生最大のメリットは、なんといっても、短時間で多くの情報をインプットできる点にあります。当たり前の話ですが、倍速で再生すれば、同じ時間で2倍の情報収集が可能です。
オンライン講座のようにカリキュラムが厳密に決まっているコンテンツの場合はともかく、YouTubeのような動画やポッドキャストには、雑談のようなパートも結構多く含まれています。倍速なら、そういったあまり重要ではない箇所をサラッと流せるので、より学習効率は高くなります。
前述の通り、ある程度理解度が必要な内容の場合、2倍速ではなく1.5倍速がオススメです。倍速ほどではないにしても、1時間の講義を1.5倍速で再生すれば、約40分で視聴が終わります。
浮いた20分を使えばその分別の勉強ができるし、復習の時間も確保でき、全体的な学習効率は大きく向上するでしょう。
このように、コスパを重視する現代の学習者にとって、倍速再生は非常に強力なツールとなってくれます。
復習回数が増えて記憶の定着度がアップする
倍速再生を活用すると、短時間で多くのコンテンツを視聴できるため、復習の回数を大幅に増やせます。先ほどお伝えしたように、通常の速度で1時間かかる内容を1.5倍速で視聴すれば、40分で学習が完了するわけです。20分自由な時間が増えますので、その浮いた時間を使って復習ができます。
人間の脳は、いちどインプットした情報をそのままにしていると、1時間後に約50%を忘れてしまうそうです。1か月放置すれば、ほぼ80%の内容を忘れてしまうというのですから、復習がいかに重要かがわかります。
その代わり、適度に復習(1か月に3回がデフォルト)をおこない、記憶を少しずつ塗り替えていけば、ほぼ100%記憶を保持できます。とはいえ、1か月に3回も同じ内容を繰り返し確認するのは、かなり面倒です。
だから、短時間で大量の情報を確認できる、倍速再生が有効になってくるわけです。復習の段階になれば、すでに下地ができているので、2倍速でも問題なく復習できます。復習にこそ、ぜひ倍速再生を活用していきましょう。
◆オススメの復習頻度については、コチラの記事でお読みいただけます
習慣化することで脳の処理スピードが上がる
倍速再生を習慣化することで、脳の情報処理スピードは少しずつアップします。最初は速い再生速度に戸惑うかもしれませんが、定期的に倍速再生で学習を続ければ、脳が徐々にそのペースに慣れていきます。
自分でも気づかないうちに集中力や注意力が鍛えられ、気づいたら通常の再生が遅すぎて違和感をおぼえるレベルにまで、処理速度が向上するでしょう。
そうなったら、しめたものです。プロボクサーが素人のゆっくりとしたパンチを、ヒラヒラと余裕でかわすイメージでしょうか。仕事の重要な会議でも、相手の発言をゆっくりと受け止める余裕が生まれ、より高度な対応が可能になります。
ただし、あまり調子に乗って再生速度を上げすぎると、脳が疲労して理解度は一気に低下する可能性が高いです。前述の通り、慣れないうちは1倍速で、まずは理解を深めることに集中してください。
倍速再生のデメリット
倍速再生で失敗しないためにも、倍速再生のデメリットもきちんと押さえておきましょう。
理解度がどうしても浅くなる傾向が強い
倍速再生は、インプット量を増やせる反面、どうしても理解度が浅くなってしまう傾向にあります。動画や音声を速いスピードで視聴すると、情報を短時間に詰め込むようになるため、脳が処理しきれずに内容を十分に消化できないのです。
なかでも、新しい概念を学ぶ場合、理解度の面で倍速再生だとかなり厳しいでしょう。専門分野の講義動画最大のメリットは、テキストを読んだだけでは理解しにくいポイントを、わかりやすく説明してくれる点にあります。
それなのに、肝心の説明をサーッと倍速で流してしまったら、理解度が低下して当然です。さらに、高速での学習には、忘れやすいというデメリットもあります。
倍速再生は基礎的な内容の習得と復習に限定し、重要な内容や新しい知識を学ぶときには、通常の速度でじっくりと取り組むのがオススメです。
感情的な要素やこまかいニュアンスを見逃す可能性がある
もうひとつの倍速再生のデメリットは、感情的な要素やこまかいニュアンスを見逃してしまいがちになる点にあります。映画やドラマのように、登場人物の会話が重要な伏線になっているようなコンテンツの場合、倍速視聴はコンテンツの魅力を半分以上捨てているようなものです。
知識の習得が目的ならともかく、エンターテイメントとして純粋に楽しむなら、やはり通常の再生が望ましいでしょう。感情を込めた話し方や声のトーンの変化などは、通常のスピードでこそ、その意図がしっかりと伝わるものです。
しかし、1.5倍速や2倍速で再生すると、どうしても重要なメッセージの一部が軽く感じられたり、理解が浅くなったりします。
こういった状況は、対話形式の学習コンテンツでも同様です。相手の意図やこまやかなニュアンスが速すぎる再生によって捉えにくくなるため、内容の深さが今ひとつ伝わらない場合が多いです。
視聴の目的に応じて、適時再生速度を調整するように、注意してください。
脳に負担がかかり疲れやすくなる
倍速再生を長時間続けると、脳に過度の負担がかかりやすく、結果として疲れを感じやすくなります。通常より速いスピードでの情報処理は、脳にとって一種のトレーニングともいえますが、その分エネルギーの消耗も激しくなります。
とくに、2倍速以上の視聴は、注意が必要です。内容の理解より、聞き取りに意識が集中してしまい、短時間でギブアップしかねません。そうなると、せっかく視聴した内容の理解度が浅くなり、視聴した意味がなくなってしまいます。
倍速再生を活用するには、前述の通り、適度な休憩が不可欠です。切りのよい1時間を学習時間に設定する人も多いですが、倍速再生での学習の場合、1時間をひと区切りにするのは長すぎます。
ポモドーロテクニックのように、1回の作業時間は30分以内に収め、集中力を維持していかなければ脳がもちません。倍速再生はその効率性と引き換えに、非常に疲れやすい学習法であることをしっかりと頭に入れておきましょう。
まとめ
倍速再生は、うまく使えば学習効率を大幅に向上できます。しかし、脳への負担や理解度低下といったデメリットもあるため、適切なスピード設定が不可欠です。今回紹介したメリットとデメリットをしっかりと頭に入れて、ぜひ倍速再生を上手に活用してください。