記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
この記事をお読みの方は、「頭に入れた内容を長期記憶に残して、勉強や仕事で成果を出したい」とお考えの人ばかりだと思います。
たしかに、インプットした情報を長期記憶に留めておければ、勉強でも仕事でもよい成果は出しやすくなるでしょう。そこで今回は、長期記憶の基本的なシステムをしっかりと解説したあとに、長期記憶を実現するためのテクニックを10個紹介していきます。
目次
長期記憶のシステム
長期的に情報を記憶しておきたいなら、まず長期記憶のシステムをきちんと理解しておくべきです。この章では、長期記憶の種類や短期記憶との関係などをわかりやすく解説していきます。
長期記憶の種類
ひと言で長期記憶といっても、大きく3種類に分類されます。それぞれどのような役割があるのか、ひとつずつ見ていきましょう。
⚫︎エピソード記憶
私たちが経験した具体的な出来事から発生する記憶を、エピソード記憶といいます。「昔、◯◯したことがある」といった、いわゆる思い出はすべてエピソード記憶です。
実際の体験がベースになるので、エピソード記憶は、そのときの日時・時間・場所・一緒にいた人といった、こまかい情報をワンセットとして記憶しています。
よくも悪くも強烈な印象のある記憶については、言葉だけでなく映像や音・匂いといった感覚を一緒に覚えているケースも少なくありません。
たとえば、田舎で親戚と川釣りにいった記憶は、おそらく川の流れる音やキラキラ反射する水面の映像がセットになっているはずです。このように、体験に基づくエピソード記憶は長期間記憶に残りやすいという、大きな特徴があります。
⚫︎意味記憶
意味記憶とは、学習によって得た記憶です。いわゆる、知識はすべて意味記憶であり、「◯◯を知っていますか?」という質問の答えになる記憶は、意味記憶だと思ってください。
たとえば、「アメリカ合衆国の首都はワシントンD.Cである」というのは、学習によって学んだ意味記憶です。ただし、実際にワシントンD.Cを訪問したことのある人にとっては、ワシントンD.Cは、意味記憶ではなくエピソード記憶になるでしょう。
言うまでもなく、単なる知識として記憶するよりも、体験したことの方が強烈に記憶されます。とはいえ、すべての事柄を体験するのは不可能です。したがって、ある程度年齢を重ねると、意味記憶の割合がどんどん増えていきます。
⚫︎手続き記憶
エピソード記憶や意味記憶と違い、自転車の乗り方のような言葉にできない記憶を、手続き記憶といいます。
こういった「体で覚える記憶」は、習得にかなり時間が必要です。しかし、何度も繰り返すうちに突然できるようになり、一度マスターしたらしばらくやらなくてもあとはずっと忘れません。
スポーツや音楽のように体で覚える分野については、いかに意味記憶から手続き記憶にもっていけるかが、上達の大きなポイントです。
なお、意味記憶と手続き記憶は、記憶される場所が異なります。意味記憶が海馬を中心に記憶されるのに対して、手続き記憶が記憶されるのは「大脳基底核と小脳」です。
短期記憶と長期記憶の関係
記憶には、大きく短期記憶と長期記憶の2種類があります。インプットした情報はまず短期記憶としてあつかわれ、そのなかで脳が重要だと判断した内容だけ、長期記憶へ移行するのが基本的な流れです。
頭に入れた銀行のワンタイムパスワードを、入力後すぐに忘れてしまうのは、そのときだけ覚えておけばいいと脳が判断したからです。でも、同じパスワードでも、毎回同じものを繰り返し打ち込むタイプのものは、おそらく完璧に覚えているでしょう。
これは、何回も繰り返し使っているので、長期記憶としてしっかりと残しておく必要があると、脳が判断した結果です。
もちろん、すぐに忘れてしまうからといって、短期記憶を軽視するのは間違いです。もし短期記憶が正常に機能しなければ、会話しているそばから話の内容を忘れてしまい、まったく会話になりません。
短期記憶と長期記憶は、正常な生活を送るうえでどちらも重要であると、しっかり理解しておいてください。
◆短期記憶と長期記憶の違いについては、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶力低下の主な原因
記憶力が低下する原因は、大きく以下の3点です。
- 加齢
- ストレス
- 変化のない退屈な生活
記憶力の低下は、なにかひとつだけに限定されるものではなく、いくつもの要因が複雑に絡み合って起こると考えられます。
よく記憶力低下の原因として、年齢を挙げる人がいます。たしかに年齢による衰えはあるかもしれませんが、じつは知識を吸収する能力は、90歳になっても40歳の頃より高いという研究データ※1もあるのです。
それよりも、ストレスや変化のない生活の方が、よほど記憶力に悪い影響を与えています。変化の少ない生活は、同じようなことを無意識でこなしているので、頭をそれほど使う必要がありません。そのため、記憶力もどんどん劣化していきます。
ストレスについては、コルチゾール値が高い人ほど物忘れが多いという、テキサス大学の研究データ※2もあります。コルチゾールは、ストレス時に分泌される、いわゆるストレスホルモンです。
このように、記憶力を改善するには、さまざまな側面から総合的にケアをしていく必要があります。
※1:国立長寿医療研究センター「加齢にともなって成熟していく、知的な能力とは?」
※2:Stress might lead to memory loss and brain shrinkage, study says
◆記憶力低下の原因については、コチラの記事でもお読みいただけます
加齢による記憶力低下と認知症の違い
加齢にともなう記憶力の低下と認知症は、しばしば混同されがちです。しかし、両者はまったく違う状況であり、対策も大きく異なります。
両者の大きな違いは、「忘れたことを覚えているかどうか」です。年を取れば程度の差こそあれど、誰だって名前や日付を忘れることはあるでしょう。
加齢の場合は、あとから「あー、そういえば……」と自分で思い出すことも多いし、日常生活には特別支障ありません。
一方、認知症になると、自分が忘れてしまった事実そのものを忘れてしまいます。よくテレビなんかで、ご飯が済んだあとに「まだ昼ごはんを食べさせてもらっていない」と老人が泣き叫ぶシーンがありますよね。まさに、そういった状態になってしまうわけです。
また認知症の場合は、記憶力低下だけでなく、考え方や言語能力、計算力といったさまざまな認知機能に問題が発生します。いったん発症すれば、回復はむずかしく、医療機関での治療が必要です。
長期記憶3つの大原則
長期記憶として情報を残しておきたいなら、以下3つの大原則を実行してください。絶対に忘れない方法はないにしても、実践できれば記憶力は確実にアップします。
感情をともなう記憶は忘れない
感情をともなう記憶は、なかなか忘れないといわれています。つまらない授業の内容はすぐに忘れてしまいますが、パートナーとはじめてデートしたときの楽しい記憶はいつまでも記憶に残っているはずです。
記憶をできるだけ長く留めておきたいなら、こういう感情のパワーを利用しない手はありません。
以前別記事で、恐怖による記憶について紹介しました。恐怖は、いわば危険を回避するためのシグナルです。簡単に恐怖を忘れてしまえば、再び同じような状況に陥る可能性が高くなります。だから、怖かった記憶は忘れたくても忘れられないのです。
とはいえ、ものごとを記憶するたびに、毎回恐怖を感じていたら身がもたないでしょう。どうせ感情を利用するなら、楽しいとか嬉しいといったポジティブな感情を利用しましょう。
脳は繰り返しインプットされた情報を重要と判断する
脳は、繰り返し提供される情報を重要なものとして認識します。もし、なにかひとつだけしか方法を選べないとしたら、私は繰り返しおこなうインプット、すなわち「復習」を選ぶでしょう。
何回も同じ内容を脳へ刷り込めば、嫌でも記憶に残ります。もっともよくないのは、1回で覚えようとすることです。1回で完璧にしようと思っても、翌日には80%近くの情報を忘れてしまいます。
それよりも、壁のペンキ塗りのように、薄くてもいいからまずは全体を塗りつぶしてしまいましょう。当然、塗りムラはできますが、乾いてからまた塗れば、塗りムラは少なくなります。時間をおいてもう一度塗れば、塗るたびに塗装面はキレイになっていくはずです。
記憶についても、記憶のムラが気にならなくなるまで、何回も復習してください。適切な復習の間隔については、のちほどスペースド・リピティションの項目で詳しくお伝えします。
強烈な印象を与えれば忘れにくい
記憶に残るかどうかは、その情報がどれだけ強烈な印象を私たちに与えるかによって、大きく変わってきます。先ほど説明した「感情とともに記憶する」というのも、強烈な印象を与える方法のひとつです。
そのほかの方法としては、以下の2点が考えられます。
- 映像や図解の力を利用する
- 記憶法を利用する
なにか勉強をしているとき、もし文字だらけの参考書しかなかったら、正直嫌になりませんか?
文字ばかりということは、当然情報量は多いでしょう。しかし、ただでさえ、知らない知識を覚えなくてはならないのに、文字ばかり見ていたらゲンナリするはずです。
ところが、イラストや表でわかりやすく説明してくれる参考書があったら、絶対にその方が頭に入ってきますよね。これは、イラストや表が、私たちの脳に「わかりやすい!」というインパクトを与えてくれたからです。
同様に、語呂合わせや場所法のような記憶術も、私たちの脳に強烈なインパクトを与えてくれます。記憶術については別記事で詳しく紹介しているので、気に入った方法があれば、ぜひいちど試してみてください。
◆記憶術については、コチラの記事でお読みいただけます
長期記憶のためのテクニック10選
今回の記事では、長期記憶のためのテクニックを10個紹介します。ムリにすべて取り組む必要はありません。まずは、どれかひとつ気になる方法を見つけて、試してみてください。
スペースド・リピティションで復習を効率化する
スペースド・リピティションは、情報を一定の間隔で繰り返し学習して、記憶を強化する手法です。ようするに復習なのですが、復習間隔の設定が大きく異なります。スペースド・リピティションでは、復習を重ねるごとに、復習の間隔を伸ばしていきます。
最初の復習は、まだ内容が記憶に定着していないので、できるだけ早い方がいいでしょう。カナダウォータールー大学の研究データによると、以下のように適切な間隔で復習を3回おこなえば、インプットした内容をほとんど忘れずに済むそうです。
1回目:24時間以内に10分間の復習
2回目:1週間以内に5分間の復習
3回目:1か月以内に2〜4分間の復習
個人的に、少々復習時間が短いような気もしますが、ポイントは復習の長さではありません。回数を重ねるごとに、復習の間隔が長くなっていますよね。じつは、スペースド・リピティションも、復習の間隔をどんどん伸ばしていくのがルールです。
忘れた頃に復習をすると、記憶の定着度がぐんとアップします。ぜひ試してみてください。
◆適切な復習の間隔については、コチラの記事でもお読みいただけます
アクティブリコールで能動的な学習を
アクティブリコールは、情報をただ読んだり聞いたりするのではなく、積極的に思い出すことで記憶に定着させる学習法です。長期的に記憶するには、大きく以下のふたつの方法があります。
- 繰り返しインプットする
- 強く印象づけて覚える
アクティブリコールは、2「強く印象づける」に対して非常に有効です。多くの人は、テキストを読むと、なんとなくわかったつもりになります。しかし、試しに、テキストを閉じて、今覚えたことを振り返ってみてください。
おそらく、全体の20〜30%くらいしか思い出せずに、愕然とするはずです。でも、「覚えた内容を書き出す」「インプット後すぐにテキストを閉じて内容を説明する」「小テストで理解度をチェックする」といった能動的な学習を繰り返すと、記憶の定着度は飛躍的に向上します。
最初はなかなか効果を実感できないかもしれませんが、長期的視点で焦らずに繰り返してください。
◆アクティブリコールについては、コチラの記事でもお読みいただけます
五感を組み合わせたインプット
視覚情報だけに頼ったインプットは、さまざまなプラットフォームのある現代において、少々効率が悪いです。今なら、動画やオーディオブックのように、単純な文字情報以外の題材がたくさんあります。
向き不向きもありますが、もし文字以外のインプット方法が楽なら、よりスムーズに頭に入ってくる方法も並行して試してみてください。
実際、文字だけの情報よりも、映像と音声の両方からインプットできる動画を好む人が、近年激増しています。YouTubeの普及具合を見れば、動画の人気度がわかるでしょう。
忙しい人なら、オーディオブックを使って、耳から学習するのもオススメです。通勤や家事の時間にオーディオブックでインプットして、あとから時間のあるときにテキストで復習すれば、情報がスルスルと頭に入ってきそうですよね。
また、音読をしながら復習というのも、記憶の定着という意味では、非常に高い効果が期待できます。
◆視覚と聴覚のサンドイッチ学習については、コチラの記事でお読みいただけます
関連事項はまとめて覚える
なにか新しい情報を長期的に記憶しようと思ったら、できるだけ関連した情報をまとめて覚えてしまいましょう。脈絡なくバラバラにインプットするより、関連した内容を一気にインプットする方が、スムーズに頭へ入ってくるはずです。
たとえば、 diabetes(糖尿病)という英単語を覚えたい場合、「stroke(脳梗塞)」「hypertension(高血圧)」「cancer(がん)」といったよく聞く病名も一緒に覚えてしまいます。
こういった病名の動詞にはhaveが使えるので、「I have diabetes」「I have a stroke」といった具合に、関連情報をどんどん仕入れていくのです。
もちろんこういったテクニックは、英語に限らず、どのようなジャンルでも使えます。ぜひ、試してみてください。
マインドマップを作成する
長期記憶の強化には、情報を整理し視覚的に表現する「マインドマップ」が非常に有効です。このテクニックでは、中心に主題を置き、そこから関連するキーワードやアイデアを枝分かれさせていきます。
たとえば、今回の長期記憶がメインテーマなら、そのあとに「エピソード記憶」「意味記憶」「手続き記憶」といったサブテーマを配置し、それぞれに具体的な例やヒントを加えていくわけです。
マインドマップなんていらないと思う人もいるかもしれませんが、マインドマップをいったん思考の整理に取り入れると、正直もうやめられません。
頭のなかに散らばったバラバラの思考が、それぞれどういう関係にあるのか、重要度や不足している情報などについても、ひと目で確認できます。また色彩をうまく取り入れ、適所にイラストを加えれば、理解度が上がりさらに長期記憶へ移行しやすくなります。
マインドマップは、学業、ビジネスのプレゼンテーション、日常生活でのアイデア整理など、多岐にわたる場面での利用が可能です。幸い無料で利用できる良質なマインドマップアプリが、数多くリリースされています。考えることが多くて頭がパンクしそうな人には、とくにオススメですよ。
◆マインドマップについては、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶法を活用する
よほど興味のあることでもない限り、私たちは昨日やったこともすぐに忘れてしまいます。ましてや、勉強に出てくる年号や数字、あるいは単純な買い物リストにしても、それほど興味のないものを長期的に覚えておくのはなかなか大変です。
そういった無味乾燥な情報に対して、非常に効果を発揮してくれるのが、「場所法」や「ペグ法」といったいわゆる記憶法です。
もっとも有名な記憶法のひとつ「場所法」は、覚えるべき情報を特定のイメージや場所に結びつけて記憶していきます。
たとえば、買い物リストにあるキャットフードを記憶したい場合、居間のこたつとキャットフードを結びつけます。「こたつ布団をめくったら、なかでミケがキャットフードをパクパク食べていた」といった具合に、リストと場所を使ってストーリーをつくってください。
ほかの買い物リストも、別な場所とリンクさせて短いストーリーをつくっていきます。この結びつけによって、買うものがパッと頭に浮かぶようになるんですね。
もちろん、最初はスムーズにできないでしょう。でも、慣れてくれば、場所をイメージするだけで、紐づけた記憶がパッと蘇ってくるようになるはずです。まずは、2〜3個の短いリストから試してみてください。
教えることで学ぶ
教える行為は、単に知識を伝えること以上の効果を持っています。誰かに学んだ知識を教えようと思ったら、内容を深く正しく理解しておかなければなりません。理解度が浅ければうまく説明できないし、あやふやな情報を教えるわけにはいきませんので。
つまり、第三者に教える行為を通じて、私たちは自ら学び直しをしているわけです。
たとえば、新しいプロジェクトのプレゼンテーションを準備する際、内容を同僚に聞いてもらってみてください。自分ひとりでブツブツ練習するより、より深くプレゼンの内容を理解できている自分に気づくはずです。
また、同僚から質問を受けることで、自分では思いつかなかったポイントに気づけるというメリットもあります。
なお、実際に教えるチャンスがなければ、教える気持ちで情報をまとめて独り言をつぶやいてみましょう。それだけでも、効果はまったく変わってきます。
自己質問方式で曖昧な知識をつぶしていく
「覚えるべき内容をきちんと理解できているか」自己質問による確認は、長期記憶への定着に大きく役立ってくれます。
受験や資格試験の勉強をする際に、参考書や問題集の答えを見たあと、急に内容をすべて理解した気分になることがありませんか?
本来、覚えたい項目を見てパッと内容が出てこなければ、理解しているとはいえないはずです。それなのに、多くの人が、自分が後出しジャンケンのような行為をしていると気づいていません。
自己質問方式による内容の確認は、この勘違いをきっちりと修正してくれます。やることは、非常にシンプルです。
「〇〇ってどういう意味?」
「なぜそうなるのか?」
「なぜ△△になるのかというと……▢▢だから」
上記のように自問自答することで、理解の浅い部分や曖昧な部分が明確になります。そして、その曖昧な部分を自分なりに調べたり、再度レクチャーを受けたりするから、長期記憶として知識がしっかりと定着するのです。
感情を絡めて覚える
前述の通り、人間の脳には、感情をともなう記憶は忘れにくいという特徴があります。つまらない授業の内容はすぐに忘れてしまいますが、楽しかった旅行の思い出はいつまでも覚えていますよね。
うっかりよそ見をして事故に遭いそうになれば、二度と同じ目に遭わないように、「よそ見運転は危ない」と恐怖とともに記憶へ刻み込まれるはずです。こういった性質を上手に利用すれば、長期記憶への定着率は大きくアップします。
たとえば、歴史のできごとを覚えたい場合、ただ参考書を読んでもなかなか頭に入ってきません。似たようなできごとが、数多く載っていますからね。
でも、そのできごとを舞台にしたおもしろい漫画があったら、おそらく登場人物の名前や相関関係、年号などがスーッと頭に入ってくるでしょう。それは歴史とおもしろいという感情が結びついて、記憶に刻まれるからです。
漫画ではなく、イラストが多用されている入門書を活用するのもオススメです。「あっ、これならわかりやすい!」という小さな喜びが、記憶力によい影響を与えてくれます。
自分にとって、どういう形でインプットすると感情が動くのか、ぜひいろいろと試してみてください。
暗記アプリを活用する
長期記憶への定着率を改善するには、暗記アプリの活用も非常にオススメです。先ほど紹介したスペースド・リピティションは、自分で適切な復習頻度を決めるのが、初心者には少々むずかしいかもしれません。
しかし、有名な「mikan(みかん)」のように、スペースド・リピティション機能が搭載された暗記アプリを使えば、アプリが最適な復習のタイミングを自動で知らせてくれます。
また、フラッシュカード式のアプリは、アクティブリコール学習に最適です。フラッシュカードアプリでは、カードの表面に質問やキーワードを、裏面には答えや説明を入力します。
アプリがこれらのカードをランダムに表示し、ユーザーは答えを思い出していくわけです。通常は自分でミニテストをやらなければならないところ、アプリが自動でおこなってくれます。
しかも正誤を記録して、苦手な問題を重点的に出題してくれるので、記憶漏れが極端に少なくなります。効率よく長期記憶へ定着させるには、こういったアプリを活用しない手はありません。
アプリなら、いつでもどこでも、ちょっとした空き時間に取り組めます。復習の回数を増やすためにも、どんどん活用していきましょう。
大量の情報を長期記憶化するには記憶法を活用しよう
世の中には、数百桁の円周率を記憶できる、いわゆる記憶の達人が数多く存在します。こういった記憶の達人がこぞって利用している記憶法を取り入れて、少しでも効率よく記憶できるようになったらいいと思いませんか?
前章で記憶法について簡単に説明しましたが、この章ではさらに詳しく、主要な記憶法を5つ紹介していきます。興味が湧いた人は、ぜひご自分で詳細を確認してみてください。
基礎結合法
最初に紹介する基礎結合法は、記憶法の基本ともいうべきテクニックです。基礎結合法では、基礎表(干支や体の部位などがよく使われる)と呼ばれるリストをつくり、そこに新しい情報を紐づけていきます。今回は、干支を基礎表にして、食材と結びつける例を見ていきましょう。
- 子(ネズミ):「チーズ」ベストセラー「チーズはどこに消えた」からイメージ
- 丑(ウシ)「牛肉」丑年なのでそのままウシを当てはめる
- 寅(トラ)「バター」有名な絵本に出てくるトラとバターのシーンからイメージ
- 卯(ウサギ)「ニンジン」ウサギの好物といえばニンジン
- 辰(タツ)「タコ」同じ海の生物としてタコを紐づけ
- 巳(ヘビ)「長ネギ」ヘビのように細長い形をしているところからイメージ
- 午(ウマ) 「リンゴ」甘い果物が好きなウマとリンゴを紐づけ
- 未(ヒツジ)「ほうれん草」緑の野菜を好んで食べるイメージから紐づけ
- 申(サル)「バナナ」サルの好物といえばバナナ
- 酉(トリ)「鶏肉」そのままトリ=鶏肉をイメージ
- 戌(イヌ)「タケノコ」イヌが「ここ掘れワンワン」でタケノコを掘り出している
- 亥(イノシシ)「豚肉」イノシシとよく似た見た目をしているから
上記を見て、こじつけのように感じた方もいるはずです。たしかに、なかにはあまり関連性のない結合例も含まれています。
しかし、そういった点は、記憶法としてまったく問題になりません。ようは、なにかと結合させることで、強く記憶に残ればよいのです。そう考えると、ただ機械的に覚えるより、干支のような基礎表を活用した方が断然楽しく覚えられるのではないでしょうか。
場所法
記憶法として非常に有名な「場所法」は、先ほど説明した基礎結合法のアレンジバージョンになります。基礎表が場所に限定されているだけで、記憶したい内容と基礎表を紐づけるやり方はほかの基礎結合法となにも変わりません。
ただ、古代ギリシャ(約2,500年前)から使われている歴史と実績のある方法であり、利用者も多いので、個別に場所法として扱われているわけです。
場所法の基礎表として利用するなら、やはり自宅が一番でしょう。オフィスや町並みなども利用できますが、利用頻度の高い自宅がもっともイメージしやすいはずです。
たとえば、コーヒー・バナナ・白菜といった食材を覚えるなら、以下のように基礎表と結合します。
「コーヒー+お風呂」→ 浴槽がコーヒーで溢れそうになっている
「バナナ+廊下」→ 廊下に落ちているバナナで滑って転んだ
「白菜+寝室」→ 布団をめくったら白菜が寝ていた
もちろん、実際にこのような状況はあり得ないでしょう。でも、あり得ないくらい突飛な設定の方が、より長期記憶に刻み込まれます。これは場所法に限ったことではありませんが、できるだけインパクトの強い設定が、基礎結合法を成功させるポイントです。
ペグ法
ペグ法も、場所法と同様に、先ほど説明した基礎結合法の一種です。「ペグ(引っかけ釘)」という名前の通り、設定した基礎表に新しい情報を引っかけるようにして記憶していきます。
一般的に、ペグ法は数字を覚えるのに向いている記憶法といわれているので、14203という暗証番号を例にやり方を見ていきましょう。
ペグ法では、事前に数字へ対応する基礎表を作成しておく必要があります。
- 0 → お化け
- 1 → 家
- 2 → ニラ
- 3 → サンバ
- 4 → 四股
14203であれば、「家の外で四股を踏んでいるときに、ニラの匂いがしたので振り返ったら、お化けがサンバを踊っていた!」といった感じのストーリーができあがりますよね。
今回は、覚えやすいように数字と基礎表の読み方をリンクさせました。でも、基礎表に決まりはないので、読み方にこだわらずに好きな言葉を設定してもらって構いません
ただし、長い数字を暗記する場合、1桁の基礎表だとストーリーが異常に長くなってしまうでしょう。下準備は大変ですが、記憶する量を減らすためにも、2桁や3桁の基礎表の作成をオススメします。
連想結合法
前述の基礎結合法と並んで、記憶法の基礎的なテクニックといわれているのが、この連想結合法です。
ひとつの情報を次に設定した情報と組み合わせてストーリーをつくっていくのが、連想結合法の基本的な流れになっています。
たとえば、「卵・牛乳・小麦・そば・エビ・イカ」といったアレルギーの原因となる食品を覚えたい場合、以下のようにストーリーを繋げていきます。
- ケーキをつくりたくて、卵と牛乳を混ぜた
- 小麦がなかったので、そば粉で代用した
- ケーキの素を混ぜていたら、なかからエビが顔を出してきた
- エビの後ろからイカが出てきて、ケンカがはじまった
上記はあくまでも一例に過ぎませんが、イメージした内容が数珠つなぎになっているのがおわかりでしょう。このように、暗記したい内容を数珠つなぎにひとつのストーリーとして覚えるので、普通に覚えるよりも断然忘れにくいのが大きなメリットです。
しかも、「エビとイカがケンカした」というように、インパクトの強い内容を設定すれば、より記憶の定着度は高まります。
このように連想結合法は、楽しくてクリエイティブな記憶術です。遊び感覚で効率よく記憶できますから、ぜひいちど試してみてください。
語呂合わせ
語呂合わせは、覚えたい情報を同じ音の言葉に置き換えて記憶するテクニックです。昔から、受験勉強などでよく使われており、下記のような平方根の語呂合わせを見たことがある人も多いのではないでしょうか。
ルート2 ≒ 1.41421356……「 一夜一夜に人見ごろ」
ルート3 ≒ 1.7320508……「人並みにおごれや」
そのほか、「鳴くよ(794年)ウグイス平安京」といった歴史関連の語呂合わせも、非常にポピュラーですよね。
語呂合わせは、半分ダジャレのようなものであり、毎回必ずうまい語呂合わせが見つかるとは限りません。ただ、「3096(ミラクル)」「029(お肉)」のように、直感的に理解できる語呂合わせがうまく当てはまるなら、どんどん利用していくべきです。
前述の基礎結合法や連想結合法と、語呂合わせを上手に組み合わせられれば、より効率的に記憶できるでしょう。
記憶と生活習慣の深い関係とは
長期記憶の効率と生活習慣には、深い関係があります。今回は、睡眠・運動・食事という3つの側面から、長期記憶との関係性を紐解いていきます。
記憶の整理と定着は睡眠中におこなわれる
睡眠は、私たちの健康だけでなく、記憶の整理と定着にも欠かせない役割を担っています。レム睡眠とよばれる浅い眠りの時間帯に、人間の脳は不必要な情報をスクリーニングし、重要な情報を長期記憶に移していくのです。
ただし、このレム睡眠は一晩中続くわけではありません。深い眠りノンレム睡眠と交互に切り替わりながら、1回の睡眠で約4〜5回ほど出現するといわれています。しかも、入眠直後より起床近くの方が、1回あたりの時間はかなり長くなります。
レム睡眠の平均時間は、それぞれ10〜30分程度ですが、最後の1番長いサイクル時には、1時間以上続くこともあるそうです。
そのため、睡眠時間が5〜6時間と短めの人は、このもっとも長いレム睡眠を逃してしまうことになります。記憶の整理が十分におこなわれない状態が毎日続けば、記憶力に悪影響が出てしまうのは当然です。
質のよい睡眠を毎日7〜8時間確保する。記憶力に不安のある人は、まずそこからスタートしてみましょう。
◆睡眠の質を上げる方法については、コチラの記事でお読みいただけます
定期的な運動が記憶に与える影響
運動は肉体的な改善だけでなく、私たちの脳にも驚くべき利益をもたらします。とくに、記憶力の向上に対しては、定期的な運動が非常に有効です。
運動によって血流が改善されると、脳に対する血流が増加します。すると、これまでよりも多量の酸素と栄養が供給されます。脳は、基本的に血液中に含まれる栄養素で栄養を補給しているので、血流増加は脳機能の向上にダイレクトに関わってくるわけです。
また、運動はストレスホルモンのレベルを下げ、マイナスな気分を改善してくれることでも知られています。リラックスした状態を維持できれば、新しい情報の選別がより効率的におこなわれ、長期記憶への移行もスムーズに機能してくれるでしょう。
さらに、適度な運動は睡眠の質を高めてくれます。前述の通り、睡眠は記憶の選別と定着をおこなう非常に重要な時間です。深く良質な睡眠は、レム睡眠とノンレム睡眠の交換サイクルをスムーズにしてくれる効果が期待できます。
運動の種類や強度、頻度については、別記事で詳しく紹介しています。ぜひ、そちらの記事も読んでみてください。
◆運動と脳の働きの関係については、コチラの記事でもお読みいただけます
脳の働きを円滑にする必須栄養素
脳の健康を維持し、記憶力を高めるためには、バランスの取れた栄養が必要です。摂取すべき栄養は数多くありますが、なかでもオメガ3脂肪酸、ビタミンB群、抗酸化物質は率先して摂取すべき必須栄養素です。
オメガ3脂肪酸は、細胞膜の柔軟性を高め、神経細胞ネットワークの信号伝達効率を改善してくれます。オメガ3脂肪酸を含む主な食品としては、イワシやサンマといった魚類や亜麻仁油、チアシードがオススメです。
ビタミンB群、とくにビタミンB6・葉酸・ナイアシン(B3)は、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質の分泌に大きく関わっています。不足すると、睡眠障害やうつ病を引き起こす原因になるため、しっかりと摂るように心がけましょう。
また、血液中の抗酸化物質が多い人は、低い人と比べて、数十年後の認知症リスクを押さえられる可能性が高いという研究データ※があります。抗酸化物質が多い食品とされる緑黄色野菜・海藻類・リンゴ・コーヒーなど、上手に食卓に取り入れてください。
※参考: Higher Antioxidant Levels Linked to Lower Dementia Risk
◆脳によい食生活については、コチラの記事でもお読みいただけます
長期記憶とストレスの関係性
ストレスは、私たちの記憶力に大きな影響を与えます。インプットした情報をしっかりと長期的に覚えておくためには、ストレスとの正しい向き合い方を知っておかなければなりません。
ストレスが記憶に与えるネガティブな影響
人間関係や金銭的なトラブルは、スムーズな記憶を阻害する大きな要因です。ストレスが続くと、体内でコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されます。短期的に見ると、体を臨戦態勢にしてくれるコルチゾールの働きは、決して悪いものではありません。
しかし、コルチゾールの過剰分泌が続くと、記憶の司令塔「海馬」がダメージを受けます。海馬は、ストレスに弱い扁桃体と隣接しており、ストレスの影響をモロに受けてしまうのです。
そうなれば、当然気持ちが落ち込み、学習意欲は著しく低下します。もし、大量の知識をインプットしなければならない受験生やビジネスパーソンが、こういった状況に陥ってしまったら、おそらく望むような結果を残せないでしょう。
きちんと結果を出すためにも、できるだけ早くストレス対策を身につけて、記憶に与えるネガティブな影響を最小限に抑える必要があります。
◆脳のストレスとコルチゾールの関係については、コチラの記事でもお読みいただけます
日常生活でできるストレス軽減テクニック
日常生活で実践できるストレス軽減テクニックとして、呼吸法をオススメします。ほとんどの人は、普段呼吸に意識を向けることなどないでしょう。だからこそ、呼吸のやり方をほんの少し変えるだけで、驚くような効果を体験できるはずです。
呼吸には、大きく腹式呼吸と胸式呼吸の2種類があります。ストレス緩和には深呼吸が効果的なので、深呼吸のしやすい腹式呼吸がオススメです。
やり方は、背筋を伸ばして鼻からゆっくり息を吸い込み、口からゆっくり息を吐き出すだけ。吸う時間の倍くらいの時間をかけて、お腹から静かに息を吐き出しましょう。
ストレスを感じたら、5回から10回を目安に、ゆっくりと深呼吸をしてみてください。きっと、心がスーッと落ち着くのを感じるはずです。
なお、別記事で、アメリカ海軍で採用されている「ボックスブリージング」という呼吸法を紹介しています。呼吸法を試してみたい方は、ぜひそちらの記事にも目を通してみてください。
◆ボックスブリージングについては、コチラの記事でお読みいただけます
良好な人間関係が記憶に与える効果
前述の通り、人間関係のトラブルは、私たちのメンタルに強い影響をもたらします。会社の上司と反りが合わず、毎日嫌味をいわれていたら、集中して情報を覚えようという気持ちになれないでしょう。
一方、家族や友人、同僚とよい関係が築けていれば、多少嫌なことがあっても問題なく乗り越えていけます。信頼できる人たちとの支え合いや励まし合いは、心の安定をもたらし、記憶力の維持や向上に役立ってくれるのです。
さらに、会社・学校・家庭以外にも社会的なつながりがあると、刺激を受けてより脳は活性化します。ボランティアサークルや資格スクールのような場所における人間関係は、家族や友人と違い、多少緊張感をともなうものです。
自分とは違う価値観に触れる機会も増えるし、新鮮な気持ちで人と触れ合うことで、よい意味で脳が適度に緊張してくれるんですね。普段忙しい人も、ぜひいつもと違う環境に身を置く時間を設けるように意識してみてください。
まとめ
今回の記事では、長期記憶の仕組みと長期記憶を鍛える方法について、わかりやすく説明してきました。すべての方法に取り組めればベストですが、最低でも 以下3つの大原則を守れば、それだけでも長期記憶力が向上するはずです。
- 感情をともなう記憶は忘れない
- 脳は繰り返しインプットされた情報を重要と判断する
- 強烈な印象を与えれば忘れにくい