記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
人間の記憶力は、勉強や仕事のみならず、日常生活全般の根底をなす大切な能力です。しかし、記憶力には個人差があり、「覚えたはずのことをすぐに忘れてしまう」と悩む人も多いのではないでしょうか?
記憶力を高めるためには、まず記憶のしくみを理解し、その特性を活かしながら少しずつトレーニングしていくのがもっとも近道です。
当記事では、人の記憶力のしくみ・記憶を定着させるためのポイント、さらに日常生活で役立つ記憶力向上のテクニックについてわかりやすく解説していきます。
目次
人の記憶力のしくみを知ろう
ひと言で記憶といっても、じつはいくつかの種類に分類され、それぞれ役割が異なります。記憶力改善の方法の前に、まずは人の記憶力のしくみをしっかり理解しておきましょう。
記憶力3つのプロセス「記銘・保持・想起」
記憶力を高めるためには、「記銘」「保持」「想起」という記憶のステップを理解しておくことが大切です。
- 記銘:インプットした情報を覚える
- 保持:情報を覚えたまま維持する
- 想起:記憶した情報を引き出す
記銘は、情報を脳に取り込む最初のステップです。たとえば、はじめて会った人の名前を聞いたら、覚えようとしますよね。これが記銘という状態です。その後、脳は、取り込んだ情報を維持する「保持」の段階に進みます。
しかし、時間の経過とともに情報は脳裏から消え去り、記憶の引き出しに格納された状態へ移行します。もちろん、引き出しにしまわれたからといって、二度と思い出せないわけではありません。普段は忘れていても、なにかきっかけがあれば再び記憶は蘇ります。
ただし、この3つのプロセスのバランスが極端に狂ってしまうと、正常な記憶は困難です。とくに、記銘ができない状態になると、一般的に認知症と診断されます。
高齢になっても記憶力を正常に維持したいなら、これらのステップが正常に働いているうちに、意図的に脳をトレーニングしていく必要があります。
短期記憶と長期記憶の違いとは?
人間の記憶は、大きく「短期記憶」と「長期記憶」に分類されます。短期記憶は、一時的に情報を保持するメモ帳のような存在です。たとえば、買い物中に、「えーっと、あと買うのは牛乳とパンと卵と……」と、買い物リストを思い出している状況をイメージしてください。
せっかく覚えた買い物リストですが、買い物が終わればすぐに忘れてしまいます。短期記憶領域に保持できる情報量は非常に少ないので、脳が重要度の低い情報を整理して、記憶の負担を減らそうとしているからです。
一方、長期記憶は、必要な情報を長期間保存するための保管庫のようなものです。脳が「これは重要だからしっかりと記憶しておこう」と判断した情報だけを、長期記憶として保存します。
長期記憶として記憶するためには、「反復」や「感情との紐づけ」などが有効です。具体的な方法については、のちほど詳しく紹介します。
◆短期記憶と長期記憶の違いについては、コチラの記事でもお読みいただけます
長期記憶「エピソード記憶と意味記憶」
一般的に長期記憶と認識されているのは、「陳述的記憶」とよばれる記憶です。陳述的記憶は、さらに「エピソード記憶」と「意味記憶」に分類されます。
エピソード記憶は、個人的な経験に基づく記憶です。たとえば、はじめて旅行した場所や、大切な人との思い出などは、何年経っても鮮明に覚えていますよね。エピソード記憶には、時間や場所、匂い、感情などを伴うことが多く、忘れにくいのが特徴です。
一方、意味記憶とは、学習によって身につけた、いわゆる「知識」を指します。たとえば、私たちが「地球は丸い」という事実を知っているのは、本やテレビなどからその知識をインプットしたからです。
エピソード記憶は「覚えている情報」、意味記憶は「知っている情報」と考えておけば、イメージしやすいかもしれません。受験勉強のように、ある意味強制的に詰め込んだ記憶は、実際に経験したエピソード記憶と比べて、どうしても忘れやすい傾向にあります。
しかし、日常生活のなかで得る知識は、圧倒的に意味記憶が多いです。だから、人の記憶力を高めるには、いかに意味記憶をエピソード記憶に近づけられるかがポイントになってきます。
◆陳述的記憶については、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶を定着させるためのポイント
高齢になったから、病気になったからといって、必ずしも記憶力が低下するわけではありません。記憶力が正常に機能しているうちに、しっかりと準備しておけば、死ぬまで記憶力を維持することも十分可能です。この章では、記憶力改善に役立つアイデアを4つご紹介します。
適切な間隔で記憶を反復する
記憶の定着には、適切なタイミングの反復が非常に有効です。せっかく覚えても、そのまま放置してしまうと、脳は「使わない情報」と判断して忘れてしまいます。忘れるタイミングには諸説ありますが、一説ではなにもせずに1日経過すると、70%以上を忘れてしまうそうです。
こうした記憶の忘却を防ぐには、復習の回数を増やすのがもっとも有効です。記憶は、よくペンキ塗りに例えられます。最初は塗りムラのある塗装面も、薄く何回も塗り直すうちに、やがてピカピカの塗装面に仕上がります。記憶も、まったく一緒です。
記憶に定着するまで、何回も反復すれば、必ず記憶は定着します。ただし、「短期間に反復を繰り返すより、忘れた頃に反復するほうが効果は高い」というのが、現在の定説です。
学習初期は、知識の定着度が浅いので、当日→数時間後→翌日と比較的短期間で復習をします。そのあとは、1週間→2週間→1か月というように、少しずつ間隔を広げてください。
◆間隔学習(スペースド・リピティション)については、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶と感情を紐づける
感情が強く動いたとき、記憶はより鮮明に残ります。たとえば、大切なイベントで感じた喜びや、衝撃的なニュースで感じた重たい気分は、いつまでも記憶に残っているでしょう。
その理由には、感情の影響を受けやすい扁桃体と記憶を管理する海馬の密接な関係があります。感情が高まると扁桃体が活性化し、それに伴い海馬も刺激を受けて記憶が強化されるのです。
こういった脳のしくみをうまく活用できれば、特別なテクニックなどなくても、記憶力の向上が期待できます。
たとえば、よく友達と一緒に勉強している学生を見かけますよね。ひとりで黙々と勉強するより、友達と楽しく勉強したほうが頭に入りやすいと、無意識のうちに理解しているのでしょう。
もちろん、いつも誰かと勉強する必要はありません。勉強中にお気に入りのBGMを流す、香りのよいアロマを使うなどといった工夫で、独力でも気分を高めることは可能です。どういった方法が自分の気持ちを高めてくれるか、ぜひいろいろと試してみてください。
五感をフル活用して記憶を強化する
視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった、五感をうまく活用できると、記憶の定着度は大きくアップします。五感によって、ただ情報をインプットするより、脳がより多くの刺激を受けるからです。
たとえば、文字だけびっしり書かれた本より、イラストやグラフ、表などをふんだんに盛り込んだ本のほうが断然理解しやすいでしょう。これは、視覚的な情報が、脳の理解度をサポートしてくれているからです。
同様に、聴覚を活用するのも非常に有効です。ただテキストを読むより、声に出して読むほうが、より理解度が進みます。普段文字情報によるインプットが多い人は、移動の時間や作業中に、動画の音声やオーディオブックを聞き流すだけでも、記憶によい影響を与えてくれるはずです。
また、聴覚によるインプットは苦手だけど、書いて覚えるのは得意という人も一定数います。料理本を100回読むより、実際に食材を切ったり焼いたりするほうが、圧倒的に効果的です。頭ではなく、実際の感触から得られる知識は、簡単には忘れません。
視覚と聴覚、聴覚と触覚など、状況に応じて五感をうまく組み合わせていきましょう。
◆五感の活用については、コチラの記事でもお読みいただけます
どんなに忙しくても睡眠時間は削らない
記憶力を維持・向上させるためには、睡眠が絶対に欠かせません。睡眠中、私たちの脳は「記憶の整理」をおこなっています。
その際に脳は、不必要な情報を脳から放出し、必要な情報だけを記憶に定着させているのです。睡眠時間が極端に短くなると、「記憶の整理・定着」が十分におこなわれず、記憶力の低下を招きます。
もちろん、ひと晩中記憶の整理をおこなっているわけではありません。記憶の整理がおこなわれるのは、レム睡眠とよばれる、眠りの浅い時間帯だけです。レム睡眠は、ひと晩に4〜5回しか発生せず、睡眠の後半になるほど長くなるという特徴があります。
だから、睡眠時間が短くなると、もっとも長い明け方のレム睡眠を逃してしまうわけです。睡眠中の記憶の整理を十分におこなうためには、最低でも7時間から8時間の睡眠が必要であるといわれています。
睡眠を記憶力を高めるための「投資」と考え、どんなに忙しくても極力睡眠時間を削ることのないよう心がけましょう。
◆睡眠の重要性については、コチラの記事でもお読みいただけます
実生活で役立つ記憶力向上のテクニック
前述の「記憶力改善に役立つアイデア」に取り組めば、記憶力は大幅に改善されるはずです。ですが、もっと記憶力改善の方法を知りたいという人のために、この章では実生活で役立つ記憶力向上のテクニックを3つほどご紹介します。
こまめにメモを取る
メモをこまめに取る習慣は、記憶力向上に大きく役立ってくれます。人間の脳は、いちどに大量の情報を覚えるようにできていません。短期記憶として一時的に保持できる記憶量は、4〜9桁程度だといわれています。しかも保持できる時間は、30秒から長くても数分です。
それなのに、頭のなかだけで記憶しておこうとするのは、根本的に無理があります。そこで役立ってくれるのが、「メモ」です。
必要な情報をとりあえずメモしておけば、あとからいくらでも確認できます。また、無理に覚えておく必要がないので、その分の脳のリソースを情報の理解に向けられます。
とはいえ、情報を漏れなく書き留めるのは、時間的にも労力的にも非効率です。あくまでも記憶のサポートと割り切り、要点だけをサッとメモするようにしてください。全文メモできなくても、重要なポイントだけ記録できれば、記憶のトリガーとして十分役立ってくれますので。
◆効率のよい1枚メモの書き方については、コチラの記事でお読みいただけます
マインドマップで情報の関係性を明確にする
マインドマップは、情報を視覚的に整理し、その関係性を明確にするための効果的なツールです。中心にテーマを書き、その周囲に関連する情報を枝のように広げていく書式なので、情報同士の関係性が一目で理解できます。
頭のなかにある情報は、情報があちこちに散らばっていて、なにが重要でどういう関連性があるのかもわからない状態です。それなのに、頭のなかだけで考えていたら、論理的で建設的な答えを見つけられるわけがありません。
もちろん、先ほど紹介したメモも、思考の可視化に役立ってくれます。ただ、ランダムにメモした内容を見ても、情報同士の関連性がわかりにくいことも多いです。そういう場合は、このマインドマップで、情報の全体像を視覚化していきましょう。
また、マインドマップは単なる整理ツールではなく、新しいアイデアを発想するためのクリエイティブな手段としても有効です。
「なるほど、◯と△を組み合わせればうまくいきそうだな……」と、頭のなかだけで考えていたら決して思いつかないアイデアが、どんどん生まれてくるかもしれませんね。
◆マインドマップの有益性については、コチラの記事でもお読みいただけます
記憶法を取り入れる
世の中には、数多くの記憶法が存在します。記憶力を高めたいのであれば、記憶法を活用しない手はありません。
もっとも有名な記憶法は、「語呂合わせ」でしょう。「白紙(894年)に戻そう遣唐使」のように、語呂合わせを使って暗記した経験は誰でもいちどはあるはずです。しかし、語呂合わせは、いわゆるダジャレであり、すべてのシチュエーションで使えるわけではありません。
そこでおすすめしたいのが「場所法」です。場所法は、その名前の通り、覚えたい内容をよく知っている場所に紐づけて覚えていく方法です。基本的なやり方は、以下のようになります。
- 覚えたい言葉と同じ数の場所を選ぶ(玄関、トイレ、会社、コンビニなど)
- 場所ごとに言葉を当てはめる(ひとつの場所に対してひとつの言葉)
- 場所と言葉を組み込んだ文章を作成する
たとえば、「タバコ・酒・卵・猫」という言葉を覚える場合、寝室と「タバコ」を結びつけて、「寝室に入ったら、タバコの火でベッドが燃えていた」といったあり得ない情景を想像します。このようなユニークで非日常的なストーリーは記憶に残りやすく、忘れにくいのです。
なお、今回紹介した場所法以外にも、効果的な記憶法はたくさんあります。別記事で詳しく紹介しているので、ぜひいろいろと調べてみてください。
◆場所法については、コチラの記事でもお読みいただけます
◆そのほかの記憶法については、コチラの記事でお読みいただけます
まとめ
記憶のしくみをしっかりと理解して、今回紹介した記憶力向上のための方法を取り入れれば、必ず記憶力はアップするでしょう。もちろん今回紹介しきれなかった方法も、数多く存在します。ですが、まずは、今回紹介した方法から試してみて、少しずつ自分に合う記憶力の改善法を見つけていただければと思います。