記事の監修
株式会社瞬読 代表取締役山中恵美子
大学卒業後、関西テレビ放送株式会社に勤務。2009年学習塾を開講し3万人の生徒が卒業。
学習効果を上げる方法として速読を取り入れる。これが後の「瞬読」となり生徒が次々と難関校に合格。
2018年瞬読のみの講座が開講し、現在受講生は2,600名を超える。
著書『瞬読』は10万部超えのベストセラーに。その他、TV・ラジオなどメディアにも多数登場し、全国に瞬読を広めている。
英語の勉強を進めていくと、「TOEICの長文問題は、速読でサッと読まなければならない」といった情報をよく耳にします。
かと思えば、「速読よりもまずは多読をしまくって、英語に慣れることが重要」と、多読を勧める意見も巷には溢れています。
しかも、じっくりと内容を確認しながら読む「精読」という読み方もあり、どれから手をつければいいのか、悩んでいる人も少なくないはずです。
じつは速読と多読には、「速読ができれば多読もできるようになり、多読ができれば次第に読むスピードも速くなる」という密接な関係があります。そのため、速読と多読の両方をうまく組み合わせて学習できれば、英語の読解力は本当に大きくアップするわけです。
今回の記事では、速読と多読を活用した英語学習について詳しく紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
なお、精読については、別記事で詳しくまとめています。そちらの記事でご確認ください。
目次
速読が英語力に与える3つのメリット
それでは、まず速読が英語力に与える3つのメリットを見ていきます。
- 必要な情報をすぐに入手できる
- TOEICなどのリーディング問題を時間内に解答できる
- 復習の時間を増やせるので、暗記力がアップ
英語を速く読めると英語力がどれだけアップするのか、しっかりと確認しておきましょう。
必要な情報をすぐに入手できる
速読で英語が読めると、当たり前ですが、インプットできる情報量が格段に増えます。また、1分間に150ワードしか読めない人と300ワードの速さで読める人を比べれば、情報を入手できる時間にも格段の差が出てくるのは当然のことです。
「情報を素早く入手できる」というのは、じつはあなたが思うよりも、重要な意味をもっています。とくに現代のグローバルなビジネス環境においては、即断即決ができなければ、意思決定の速いライバル企業に仕事を奪われてしまいかねません。
わからないことは、その場ですぐに調べて結論を出す。こういった意思決定の速さが、これからはますます重要になってくるわけです。
ちなみに、私たちがリサーチに使うインターネットにおいて、日本語の情報量は英語サイトの約1/10しかないといわれています。だから、日本語の情報だけをチェックしている人は、誰もが同じような情報しか見つけられません。
その点、情報量が多く信頼性の高い英語の情報を素早くチェックできるあなたは、ビジネス市場において、間違いなく大きなアドバンテージをもっているといえます。
◯速読のしくみについてもっと知りたい方は、こちらの記事もどうぞ
TOEICなどのリーディング問題を時間内に解答できる
「問題を読むのが速くなり、TOEICのリーディング問題を時間内にすべて解答できる」のも、速読力の大きなメリットのひとつです。
TOEICの場合、極端にむずかしい問題は出題されませんが、とにかく問題数が多くて最後まで解答できない受験者が毎回たくさんいます。
ちなみに、TOEICのリーディング問題を時間内に解答できず、適当に塗りつぶす状態を俗に「塗り絵」といいます。TOEICでハイスコアを出すには、最低限この塗り絵を回避して、見直しの時間を多少なりとも確保できるレベルになっておかなければなりません。
韓国と日本以外ではほぼ知名度のないTOEICですが、希望する日本の企業で働きたいのなら、やはりTOEICのハイスコアは大きな武器になります。そのハイスコアを支えるベースとなる能力が、今回紹介している速読力というわけです。
◯速読とTOEICについては、こちらの記事もどうぞ
復習の時間を増やせるので、暗記力がアップ
速読力を鍛えれば、テキストや洋書をたくさん読めるので、そのぶん暗記力がアップします。
どんなに勉強慣れしている人でも、一度読んだ(聞いた)だけの内容は、1日経てば20%程度しか覚えていられません。だから多くの学習者は、テキストを何回も繰り返し読んで、少しずつ覚えられる量を増やそうと努力します。
そこで役立つのが、速読力です。いくら復習が大事だといっても、読むのが遅ければ、そう何度も復習はできないですよね。ところが、通常の何倍もの速さでテキストが読めれば、3回・5回と復習の時間を増やせます。
なかでも英単語の暗記には、復習が不可欠です。多い人なら、同じ単語帳を10回も20回も復習しますからね。速読でササッと読める能力は、英語の暗記において、非常に大きな武器となるのは間違いないでしょう。
◯復習については、こちらの記事もどうぞ
多読が英語力に与える3つのメリット
速読のメリットがわかったところで、今度は多読が英語力に与える3つのメリットを解説します。
- ネイティブの自然な英語が身につく
- リスニング力も向上する
- 慣れると速読ができるようになってくる
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
ネイティブの自然な英語が身につく
多読とは、文字通り「本をたくさん読む」ことです。英語で書かれた本をたくさん読めば、少しずつ英語に慣れてきて、ネイティブの自然な表現が身についてきます。
ところが日本人、とくに受験生は、どうしても参考書や問題集を使った学習が中心にならざるを得ません。こういった勉強法は、受験やTOEICといった「ごく限られた範囲の正答を求められる試験」には、非常に有効です。
ただ参考書と問題集ばかり勉強している人の多くは、暗記事項をムリやり組み込んだ、日本人向けの不自然な文章ばかり読んでいることになります。
多読で英語の自然な表現に触れていないので、TOEIC900点を超えても、ネイティブとまったく会話できない人が少なくありません。
これでは、一体なんのために英語を学んでいるのか、まったくわからないですよね。その点、実際にネイティブが読む本を多読すれば、自然な英語表現が頭に蓄積され、やがて英語で英語を考える「英語脳」がつくられてきます。
もちろん、いきなりむずかしい英語の本を読んでも100%挫折しますし、英語の多読にはさまざまなコツが必要です。 多読を成功させるポイントについては、またのちほど詳しく解説します。
リスニング力も向上する
多読をすると、読書量にともなって、リスニング力も向上します。もしかすると、「えっ?読む量とリスニング力が関係あるってどういうこと?」と思ったかもしれません。しかし多読は、間違いなくリスニング力を向上させてくれます。
じつはリスニングができないのには、2つの異なるケースが考えられます。
まず音そのものが聴き取れないケース。いくら単語の読み方を知っていても、「get up」は「ゲット・アップ」ではなく、「ゲラップ」のように音が連結されるといった発音のルールを知らなければ、英語は聴き取れません。
もちろん、読み方云々の前に、そもそもネイティブの速い会話についていけない人も多いでしょう。しかし、こういった聞き取りの精度は、慣れによって徐々に改善されてきます。
多読が関係するのは、2つめの「音そのものは聴き取れても意味や使い方を知らない」ケースです。
「hay fever」を「ヘイ・フィーバー」と聴き取れても、「花粉症」という意味がわからなければ、それは単なる呪文を聴いているのと同じ。音声を意味と使い方に結びつけるには、単語・文法・慣用表現といった基礎知識のインプットが欠かせません。
多読は、この基礎知識のインプットにおいて、非常に効果的な読書法なのです。
慣れると速読ができるようになってくる
冒頭でもお話ししたように、速読と多読には密接な関係があります。本を速く読めるとたくさんの量が読めるし、たくさん本を読めば読書スピードもアップするといったように、速読と多読をバランスよく組み合わせるのが、英語学習を成功させるコツです。
多読のよさは、自然な英語をたくさん読むうち、脳内にナチュラルな英文が蓄積されてくるところにあります。いわゆる、前述の「英語脳」ですね。
いったん英語脳が構築されれば、英語をいちいち日本語に訳さなくても、英語を英語のまま理解できます。英語のまま理解できれば、後述する返り読みの必要がないので、そのぶん速読が可能になるわけです。
ただし、ただ闇雲に英文を読み散らかしても、多読の恩恵は受けられません。多読を効果的に進めるにはいくつかポイントがありますので、のちほど詳しく紹介します。
◯多読については、こちらの記事もどうぞ
英語でも速読ができるようになるポイント
速読と多読のメリットを理解したところで、今度は速読と多読のポイントを紹介していきます。まずは、速読のポイントを3点見ていきましょう。
- 最初に基本的な文法と語彙力を身につける
- 返り読みをしない
- 時間を測って文章を読む
最初に基本的な文法と語彙力を身につける
英語で速読をしたいなら、まずは基本的な文法と語彙力を身につけなければなりません。わからない単語がたくさんあり、英語のルールもわからない状態では、そもそも速読以前の問題ですからね。
本来は日本語(母国語)のように、親の言葉をマネしたり、好きな本を読んだりしながら自然と覚えていくのが理想です。
しかし大人の場合は、すでに母国語として日本語脳が確立していますから、文法と語彙力の勉強については少々工夫が必要になります。
具体的には、速読と多読を意識する前に、まずは中学校レベルの英文法書(できるだけ薄いもの)を1冊読んでおいてください。といっても、すべての文法事項を暗記する必要はありません。
「こういうルールがあるんだな」と、ザックリと頭に入れておけば十分です。あとは、実際に英文を読みながら、わからない箇所をその都度確認していきます。
また、さすがに最低限の単語を知らなければ英語は読めませんから、まずは中学校で習う基本語彙「1,600単語」を単語帳などで覚えてしまいましょう。
返り読みをしない
英語の読書スピードが遅い人は、まず100%「返り読み」をしています。返り読みというのは、上図のように、いったん最後まで読んでからまた途中まで戻る読み方のことです。
どうして返り読みがNGなのかというと、最後まで読んでまた戻るという時間的ロスが、読書スピードを著しくダウンさせるからです。それだけでなく、返り読みのクセがつくと、会話のテンポにもついていけません。
このように100害あって一利なしの返り読みですが、「スラッシュリーディング」に取り組めば必ず返り読みのクセは抜けていきます。
スラッシュリーディングとは、英語の語順のまま理解していく読み方です。詳細は別記事で詳しく紹介しているので、そちらの記事をご参照ください。
時間を測って文章を読む
ただ漠然と本を読んでも、正直なところ、なかなか速読できるようにはなりません。速読をしたいなら、日頃から時間を測って文章を読むトレーニングをおこなってください。
理由は単純で、時間を測らないと自分が速読できているかどうか、わからないからです。また時間を測ると、速く読もうという意識が働き、通常よりも速く読めます。なにも縛りがないと、どうしてもだらけてしまいますからね。
なお、ネイティブの読書スピードは、平均的な大人の場合で1分間に約300ワードといわれています。英語を母国語としない私たち日本人の場合、知らない単語がなければ、約250ワードがひとつの目安になるでしょう。(知らない単語がある場合は200ワード)
ちなみにTOEICのリーディングセクションには、最低でも150ワード以上の読書スピードが必要です。多読初心者の場合、まずは150〜200ワードを目指して、トレーニングしてみてください。
◯速読法の違いについては、こちらの記事もどうぞ
多読を効率よくおこなう3つのルール
多読が、自然な英語を学ぶ最高の方法であるのは間違いありません。ただし、英語を母国語としない日本人にとって、失敗の可能性が高いのもまた事実です。この章では、せっかくの多読で失敗することのないように、「多読を効率よくおこなう3つのルール」を紹介していきます。
- 児童書や語彙制限本でムリなくスタート
- 極力辞書は引かない
- おもしろくない本は、途中で止めてもOK
それでは、ひとつずつ紹介しますね。
児童書や語彙制限本でムリなくスタート
これまで英語の本をほとんど読んだことのない人が、いきなりビジネス書や小説を読むのは、ハッキリ言って無謀です。まずは、ネイティブの子どもが読む児童書からスタートしましょう。
児童書を子ども向けといってバカにする人もいますが、これは大きな間違いです。なんといっても、仮定法や現在完了といった、日本人の苦手な文法がバシバシ出てきますからね。
また、ネイティブ向けの本には、私たちが学校で習わない単語がたくさん使われています。あまりムリをせず、自分がイメージするレベルよりも、2ランク下の本からスタートするのが成功のコツです。
なお、多読のレベル分けについては、下記のサイトで確認してください。
もし、児童書でもむずかしいと感じるなら、非ネイティブ向けに単語数を制限して書かれた「語彙制限本(Graded Readers)」がオススメです。
こちらも上記SSSのサイトにてレベルが詳しく紹介されているので、アマゾンの試し読みなどと併用して、自分のレベルに合った洋書を選んでください。
極力辞書は引かない
実質、日本における多読のスタンダードとなっているのが、前述の「SSS英語学習法研究会」です。SSSでは、以下のような「多読の3原則」を定めており、多くの人がこの3原則に沿って多読をしています。
- 辞書は引かない
- わからないところは飛ばす
- つまらなくなったら後回し
もしかすると、「辞書を引かない」というのを見て、驚いた人もいるかもしれませんね。「辞書が禁止なら、わからない単語があったらどうするの?」と思うのが普通でしょう。
結論をいえば、わからない単語はできるだけ前後の文脈で、「推測」するのが基本です。ただ、あまりにもわからない単語が多すぎると、さすがに推測にも限界があります。
もし、1ページに5個も6個もわからない単語があるようなら、その本はあなたのレベルに合っていません。前述のように、レベルを1もしくは2ランク落としてみてください。
多読最大の目的は、あくまでも「自然な英文に慣れて英語脳を構築すること」です。そのためには、日本語を極力介さずに、ナチュラルなスピードで読む意識が欠かせません。わからない単語や文法をじっくりと調べたい場合は、精読として別途取り組みましょう。
※SSS式のルールが絶対というわけではなく、気になる単語だけ調べるなど、自分なりのアレンジを加えている人はたくさんいます。
おもしろくない本は、途中で止めてもOK
いざ洋書を読んでみたら、どうにもつまらなくてページが進まない。もしこういう状況になったら、すぐに読むのを止めてしまってOKです。
前述のとおり、簡単な文章をスピーディーに読まないと、多読の効果は半減します。つまらない本で多読が滞るくらいなら、すぐにほかの本とチェンジしてしまいましょう。おもしろいと感じる本だけを選び、多読を習慣化して、まずは100万語を目指してみてください。
正直なところ、100万語を突破しても、「TIME」のようなむずかしい経済誌をスラスラ読めるとは限りません。
しかし100万語レベルになれば、通常レベルの洋書やネット情報なら、とくに苦労することなく理解できるようになるはずです。100万語の次は500万語、1,000万語と、おもしろい本でどんどん多読を加速させていきましょう。
まとめ
本文中でもお話ししたように、速読ができれば「情報がすぐ手に入る」など、さまざまなメリットを享受できます。速読でTOEICのスコアがアップすれば、就職や転職にも有利でしょう。
その速読のベースとなるのが、英語のまま英語を理解する「英語脳」です。英語脳を構築するには、なんといっても多読がいちばん。今回紹介した「速読と多読のコツ」を参考に、ぜひ速読と多読の両方をブラッシュアップしていきましょう。